蓮花を縛るもの 4
召喚した魔獣が役にたたないとわかると、男は窓を割り、外に出てしまった。そして、振り向きざまに再びナイフを振るう。黒い空間が出現して、そこから何かが出現した。
「お土産ですよ。せいぜい楽しんでくださいね」
男はそう言うと、その場所からすぐに姿を消した。再び魔獣を召喚して、自身が逃げる時間を稼剛をしているというのはわかるが、この世界で魔獣を召喚され、それを放置してしまうと、この世界で被害が出てしまうのは考えずともわかることだろう。異世界のように、魔獣に抵抗できるような力を持っている人はこの世界には珍しいはずだ。そこら辺の人のは魔法は使えないだろうし、超能力も持っているとは思えない。つまりは、ここでそれを倒さなければ、この学校には多大な被害が出るというわけだ。あの男を逃がすとまたろくでもないことをしそうだが、今は止めることは出来ない。
黒い空間から出てきたのは彼がみたことしかない魔獣だ。その魔獣は空中を移動している。翼も持っておらず、その板のような体をくねらせて移動しているようだ。その大きさは白希の二倍ほどで、その魔獣が持つ幅も相まってかなり巨大に見える。横にした円柱の体で、地面と平行に魚のひれのような器官がいくつもついていた。。見た目には目のようなものはなく、生物としてはかなり不気味に見た目をしている。おまけにその魔獣の体の下部には細く柔らかそうな針のようなものが、魔獣の体が動くと同時にゆらゆらとしている。異世界ではその魔獣には近づくなと言われたものだ。洞窟や山の上に生息している魔獣。普段は人と会うことすらないだろう。だが、それでもその魔獣が脅威であることは冒険者の中でも有名な話だった。逃げるべき相手。異世界であれば、目の前の魔獣を放置して逃げるのだが、この世界ではそうもいかない。
(魔獣の下部には近づいてはいけない。そう言ってたっけ)
下部に生えている触手はどんなに硬いものも貫くと言われているらしい。突き刺す際にはゆらゆら揺れている触手は何よりも固くなり、下にいるものを刺し殺すという。幸いにも今、その魔獣は男が地面近くで召喚してしまったものだから、下部に入ることはないだろう。だが、それも時間の問題で、空に上がれば沢山の被害者が出ることだろう。
「シラキッ」
いきなりファスに名前を呼ばれて、意識がその魔獣から引き離される。何者かが彼に香華してきていた。ファスが土の壁を作り出して、その攻撃を防いだのだ。彼に攻撃したのは未だ正気に戻っていない蓮花だ。彼女はいつの間にかナイフを握って、彼に攻撃しようとしていた。その程度のナイフでは土の壁を貫くことは出来ずに、その手は止められた。
「蓮花。少しの間、眠っててくれ。ファス、クレイピラー」
彼の足元から柱が出現して、彼女の腹に入る。彼女は口から空気が漏れて、う、という音を発すると、前のめりに倒れた。息はしているものの、もう動く様子はない。気絶から回復すれば、彼女も正気に戻っているだろう。彼は未だに目を覚まさまない菜乃花の隣に蓮花を寝かせた。男が割った窓から彼は外に出る。
「プロイア、エアカッターッ」
彼の周りに薄緑色の空気が出現して、それらは流れを作り風となる。風となったそれらは魔獣の方へと流れていく。魔獣を取り囲むように流れた風はそこから一瞬で就寝に惹かれるように集まる。それが空気の刃となって魔獣の体に攻撃する。傷ついた体から、黒い液体が飛び散った。だが、その魔法を物ともしていないのか、魔獣は体をくねらせて、彼の方へと向いた。それが正面なのか、背後なのかはわからないが、魔獣であれば逃げるという選択肢はない。彼に向けて射るとすれば、正面であるはずだ。それはすぐに正しいと証明される。相手が彼に向かってかなりの憩いで突っ込んできたのだ。彼はそれをギリギリ回避して、相手の上にのろうというような角度で跳んでいた。
「フレイズ、スパークルサンフレイムッ」
彼の周りで赤い光点が三つほど出現した。それらは輝き始めると色を白へと変えた。白く光る光点が魔獣の体に触れると肉が焼ける音がして、白い火が魔獣の体に広がる。その速度は一瞬だ。たった一つでその威力、残り二つの光点が魔獣に引き込まれるように移動して、更に白い炎を噴き上げた。魔獣には口のような器官もないため、音を出すことがない。だが、体を大きく、せわしなくくねらせているのを見ると、ダメージは入っているのようだった。
「プロイア、エアロドリフト」
彼の周りで生まれた風が、魔獣の背中を撫でるような優しさで吹く。その優しい風は魔獣を焼いている炎を大きくさせた。彼もいい加減熱くなって、その場からテレポートで地面へと移動した。もちろん、その時に魔獣の下に移動するなんて愚行はしない。燃え尽きたのか、浮く力が無くなったのか、魔獣は地面に落ちた。




