蓮花を縛るもの 3
「蓮花。仕方ない、か。ちょっと乱暴だけど、こうするしかないもんね」
蓮花から殺意を感じるようになってしまった以上、目の前の魔獣、マニパロットの声の影響を受けてしまった後と捉えるしかない。あの魔獣の声には生物の心を混乱させる効果がある。それも恐怖で縛るもので、マニパロットの影響を受けた人は、あの鳥に頭を支配されていたというのだ。つまりは、勝機になったとしても、自分が何をしていたかを認識してしまうということである。洗脳状態とは言え、仲間を手に掛けた記憶もその感触も残るのだ。マニパロットにやれずとも、洗脳状態の中で仲間や、殺したくもないのに殺しをさせられたものの中には自殺者も多くいる。洗脳状態で罪には問われないだろうが、それで自信を許すということは出来ないのだろう。白希もこの魔獣に遭遇した時には、仲間の一人が洗脳状態になり、自分が殺されかけたのを覚えている。一緒にいた魔法使いが、対処法を知らなければ、全滅していただろう。それほどの強敵だ。
だが、それは彼がまだ、妖精たちと今のような絆を結ぶ前の話だ。誰も彼に付いてきてない時だ。フレイズとプロイアを助け出し、森の中の盗賊に捕まっている何かを助けに行こうとしたときに起こったことだった。その閉じ込められていたのが、ファスだったというわけだ。
今の彼にはあのときより強いだろう。一人では何もできなくとも、今は妖精たちが力を貸してくれる。それで十分に勝てる相手だった。
ギエ、ギエ ギエ、ギエ
マニパロットは蓮花が洗脳状態にあっても鳴き続けている。その声を遮断する術を持たない蓮花は更に頭の中で、棲みついたそれが暴れて、恐怖心を煽る。もはや、彼女は正常に思考することは出来ないだろう。彼女の顔を見ればわかることだが、涙を流し、鼻水まで出てきている。口からは嗚咽ような、泣き声を我慢するかのような声も漏れ出ている。もはや、いつもの凛とした綺麗な顔が台無しだ。
「まずはバカ鳥の処理からだ」
彼がそう呟くと、妖精たちは頷いた。次の瞬間にはテレポートを使用して、魔獣の目の前に出現する。魔獣は基本的には知性らしいものを持っていない。だからこそ、その行動は先読みしやすい。人が魔獣に苦しむ理由は動物を超えた身体能力を持っているからだ。その身体能力に大きな体を持つ。そして、攻撃しても怯むことなく突撃してくるのだから、人がただ戦闘訓練するというだけでは勝てる相手ではない。だが、白希はそこらの一般人と言うわけではない。異世界でどれだけの訓練と言うか、実戦経験があると思っているのか。
「プロイア、セイバーランスっ」
彼の周りで一瞬だけ強風が吹いて、それが相手の方へと一瞬で移動する。相手の周りでそれは薄い刃になり、相手の真上からかなりの速度で振り下ろされた。その流れを錦できるのは白希たちだけだ。マニパロットも魔獣を召喚した男もそれを認識できなかっただろう。
ギィィィエェ!
いきなり攻撃を受けた鳥は翅を広げてバタバタと動かく。その翼が起こす風に煽られて、魔獣を召喚した男がしりもちをついた。男は何をとか呟いていたが、その声は誰にも届かない。男の声も、翼の羽ばたきで掻き消えているのだ。
「プロイア、もう一度、セイバーランス」
再び彼の周りに強風が吹き、相手の元に行くと刃となって、振り下ろされた。今度は頭の上ではなく、翼の付け根の辺りに向かって振り下ろされる。大きな翼の付け根の辺りに刃が食い込み、深く刃が張ったように見えたが、大きな翼からすれば大した傷ではないようにも見えた。だが、マニパロットその傷が入った状態でも翼をばたつかせる。魔獣は怯むことがない。明らかに即死の攻撃あろうとも、攻撃を優先するのだ。つまりは痛みによって止まらない。マニパロットの翼の付け根の辺りの傷が、開いていく。自ら翼を動かして翼を引きちぎろうとしているようにしか見えない。やがて、ぶちぶちと言う音を辺りに響かせながら、左の翼がちぎれた。マニパロットはそれに気が付いていないかのように動き続けて、彼に自身のくちばしで攻撃しようとしていた。だが、大きな翼が片方ちぎれたのだ。大きな翼が片方だけついているのだから、バランスが大きく崩れる。魔獣のくちばしは彼ではなく地面にぶつかる。廊下の床にひびを入れた。攻撃が外れた魔獣は再び攻撃するために、くちばしを持ち上げようとした。だが、顔を下げた時点で魔獣の負けは確定していた。
「ファス。フォールロックストーンッ」
今度、彼の周りに出現したのは、風ではなく、石の礫。それらが、魔獣の頭の上で集まり、大きな石、いや、岩の塊となった。そして、魔獣が顔を上げるのと同時に、それが下に落ちる。見事、魔獣の頭にぶつかり、あまりの威力に魔獣の首が地面にめり込んでいた。鳥はしばらくの間、力なく翼を動かしていたが、やがて力を失った。




