九尾・琥珀の力 4
琥珀は恐怖を感じたまま、どうすることも出来なくなっていた。白希は彼を動けないように上から押さえつけている。菜乃花の治療を条件にされても、彼には彼女を治す手段など持っているはずもない。そもそも、菜乃花のあの状態は超能力が暴走している状態なのだから、彼にどうにかするということはできない。もはや、彼にはどうすることも出来なくなっていた。
「わしにはどちらも選ぶことは出来ない。最初から言っている通りなんだ。わしには菜乃花を治療する術を持っていない。あれは彼女の超能力が暴走している状態だからな」
その言葉を聞いて、白希から琥珀に向けられていた殺意が多少緩む。白希は与えられた情報について思考する。彼女の超能力がヴァンパイアであり、その力が暴走しているという話なのだろう。もちろん、目の前の男の話を術で信じるとすれば、だが。しかし、この追いつめられた状況で、自らが不利になる情報を渡すとは思えない。命乞いをするならば、彼女の治療をすると言った方が逃げられる可能性が高まるだろう。彼の言葉に施行することで、彼の頭が多少冷えた。
「それが嘘なら、消滅させるけど。朝野菜乃花のあの症状の解決方法は知ってるの?」
「い、いや、知らない。ヴァンパイアについての情報をわしは持ってないんだ。お主はヴァンパイアが生きるための糧が何かを知っているか? おそらく、それを得ようとしているに違いない。それが得られるか、菜乃花が超能力を使えない状況になれば、対処できるはずだ。……ほら、ここまで教えたんだ。わしを助けてくれるんだろう?」
もはや、琥珀は最初に彼と敵対した時とは比べものにならない程、怯えていた。実際に白希には琥珀を消滅させる超能力がある。それはフレイズの崩壊の超能力だ。その力を使えば、ほぼすべての物を崩壊させられる。おそらく、琥珀のような妖怪も例外ではないだろう。白希は彼が嘘を吐いているわけではなさそうだと理解して、彼の上から退いた。琥珀は息を止められていたわけではないはずなのに、彼から解放されることで息苦しさを感じていたことに気が付いた。呼吸をする必要はないはずなのに、大きく息を吸いこんで、心を安定させる。
「貴方にも来てもらおう。悪いけど、僕は貴方を信用してない。さっき言ったことが嘘なら、僕は貴方を消す」
ただ、彼の視線が自分に向いているだけだというのに、琥珀は恐怖心が再び湧き上がってくる。再び、息苦しさを感じ始めて改めて、自分の死が目の前にあるということを自覚させられる。九尾ある彼は、死ぬことはなく、次、現世に来るときには再び狐の体と魂を操るという超能力を持って生まれてくるころだろう。だが、彼はその輪廻から自身を弾くことすらできるのではないかと彼は考え始めた。そうでなければ、ここまでの恐怖心は沸かないはずだ。次に同じようにして生まれるとわかっていれば、今の生は無駄にしても気にならないだろう。ただの悪ふざけで死んでも、次があると思える。だが、彼は殺すではなく、消滅させると言ったのだ。もし、その攻撃で自身の魂までも消されてしまえば、もし次に生まれてくるとしても、記憶も超能力も全てが零の状態になってしまう。それはもはや、自分ではないと言えるだろう。つまりは、九尾・琥珀は本当の意味で消滅することになるのだ。だからこそ、それが恐怖に変わる。
「わ、かった。逃げない、逃げないから」
琥珀はもはや、彼が天敵であることを悟る。彼は多少の悪戯もできないだろう。琥珀にとっては些細でも、彼が有罪とすれば、それで終わりなのだ。琥珀は白希に従うしかない。妖怪は自身より力の強い者には逆らえない。たとえそれが人間であっても、だ。
琥珀を引き連れて、白希は菜乃花の元へと戻る。菜乃花はまだ人間のままで、超能力は使えないようだった。息は荒く、体をよじって苦痛に耐えるようにしている。
「今江さん。姉さんは、どうしたら……」
蓮花がテレポートしてきた彼に気が付いて、眉を下げて弱った顔をしながら彼に助けを求めた。
「わかってる」
彼は菜乃花の腹部に手を当てて、治癒の超能力を使った何らかの病気や傷でそうなっているなら、超能力を使用すれば治るはずなのだ。超能力の暴走と言うことは、それに関する器官を治せばいいのかもしれないが、それがどこなのかはわからない。だが、それを知らずとも治すことが出来るから超能力なのだ。彼の治療によって、菜乃花の息が落ち着いていく。よじっていた体も徐々に緩んでいく。ついには彼女は苦しそうな息も体も全て元通りになり、静かに寝息を立てるだけになっていた。




