抑えられない衝動 1
倒れた菜乃花を琥珀は、横抱きで抱えて、ソファに横たわらせた。彼女は意識が朦朧としているようで、琥珀に抱かれていたことすら気が付いていないようだった。やがて、うわごとのように口から出ていた言葉は聞こえなくなり、彼女は気絶するように眠り始めた。琥珀も彼女は眠ったことで、どうすれば彼女を回復させられるかを考えようとした。眠ったならば、しばらくは起きないと考えてしまった。だから、眠った彼女がすぐに起き上がるとは予想していなかった。起き上がった彼女は窓の方へと移動すると、彼女の姿が変わっていく。背中には翼が生えて、マントが出現して彼女の肩に掛けられた。その返信と同時に彼女は窓を割り、外に出た。琥珀はそれに驚きながらも、彼女の背を追って、外に出る。菜乃花は既に上に移動して空を飛んでいた。翼を羽ばたかせることなく、空を飛んでいる。
「菜乃花っ」
琥珀には彼女がいきなり外に出た理由もわからない。それにヴァンパイアと言えば、太陽の元に出ることは出来ないはずではないと琥珀は考えていた。だが、彼女はヴァンパイアの状態でありながらも、朝日を浴びながら、空を飛んでいるのだ。どうなっているのかわからないが、彼女を連れ戻し、安静にしなければいけないと思い、彼は菜乃花が飛んでいく方向へ屋根を伝いながら追いかける。
空を飛ぶ人がいたり、屋根の上を走る人がいるが、二人に注目する人は一人もいなかった。菜乃花も琥珀も一般人には認識できないようにしているのだ。認識できないというよりは、意識の中に入らないという方が正しいだろうか。彼らの視界には確かに二人の姿は映っているが、その扱いが路傍の石と変わらないというわけだ。
(どうなっているというのだ。ヴァンパイアが昼にここまで活動できるなんて聞いたことがない)
琥珀が彼女を追いかけながら、そんなことを考えていた。
(熱い、苦しい。喉が渇いたな。何か、飲み物を……)
菜乃花は朦朧とした意識の中、自身の渇きを自覚していた。体の中が熱く、異常に喉が渇く。彼女は自分がヴァンパイアに変身しているという意識はない。彼女にとって今は、夢の中と変わらない。つまりは彼女が自身の超能力を制御できていないというわけだ。そうなったのも、昨日の宇宙人との戦いのせいだった。実際に戦ったのは琥珀で間違いはないが、彼女は自身の命の危機に遭っている。一般人でも命の危機に瀕すれば、火事場の馬鹿力が発揮されることがある。超能力を持っているのなら、その超能力を使い窮地を脱しようとするだろう。そして、彼女もそれは変わらない。ヴァンパイアに変身して自身の死を回避しようとした。だが、琥珀が彼女を守り、事なきを得たのだ。だが、彼女のヴァンパイアの遺伝子が戦いが終わっても、命の危機に反応してしまったため、自身の命の存続を図るために、力を発揮しているのだ。ヴァンパイアは人の血を吸い、命の力を自身の体に馴染ませるのだ。今の彼女が感じている渇きはヴァンパイアの遺伝子が作り出しているものだった。彼女は誰かの血を吸うまで、止まることはないだろう。そして、太陽の光の下で動いているのは、彼女の意識が人の状態だと思い込んでいるからだろう。超能力と言うのは、使用者の意志で変化する。元を辿れば同じ超能力を持っているものであっても、認識や意識が違えば、見かけ上は違う超能力に見えるだろう。そして、彼女のヴァンパイアの特性も彼女の思いこみでしかない。ヴァンパイアは日の光に弱いという知識を持っているがために、日の下では弱体化してしまうのだ。
彼女はしばらく飛んで、商店街の上にいた。商店街は上からは見にくい。すりガラスの屋根があり、中の様子ははっきりは見えないのだ。そのため、彼女はそこでは止まらず、学校へと向かう。血を数には適切な場所だった。彼女の本能は無意識に彼女の知識を使って行動している。ヴァンパイアの本能だけで動いている彼女は止まることはなかった。
その後ろを琥珀が追いかけてきている。自身の力を使って彼女を止めたいとは思うが、彼が最小の力で戦ったとしても、蜥蜴人間に撃った魂のクズが最小の威力になる。あれをヴァンパイアとは言え、菜乃花に使えば、彼女が死ぬ可能性もあるだろう。だから、彼は助けられない。圧倒的な力を持ってはいるが、手加減の術はない。彼は付いて行くしかないのだ。助けを求めらえる人もいない。
そして、ついに菜乃花が校舎のある敷地の上空に到着してしまった。彼女は下を見下ろして、そこに沢山の人がいるのを確認した。人の、血が通っている臭いが超強化されているヴァンパイアの嗅覚をくすぐる。そのせいで喉がなる。ヴァンパイアの本能のは彼女の理性で止められるものではなくなっていた。




