こっくりさんの実力 4
蜥蜴人間の抜け殻は琥珀が、彼の魂の中に取り込んで、処理をした。彼曰く、抜け殻でも、魂のクズ程度には役にたつらしい。それから、彼は手に持っていた刀を宙へ放るとそのまま地面に落ちずに消えた。それから、彼の周りにある白く輝く火の玉も彼の体の中に吸収されるように戻っていく。しかし、彼が人型から狐に戻ることはなかった。
「ふむ。しばらくはこの姿でいるとしようか。敵がいつ来るかわからないとなると、この姿の方が戦いやすい。四足歩行では刀を扱うことが出来ないしな」
彼が菜乃花にそう言ったが、彼女はそれに返す言葉はなかった。彼は得体のしれない妖怪の一種だが、琥珀自身は話に聞いていた九尾とは違うようだ。それに、今回助け貰ったのだ。彼に向けた警戒心が緩くなるのも仕方のないことだろう。その後、敵の襲撃はなく、彼女は自分の布団に入り眠った。その間、琥珀は眠る必要がないと言っていた。彼女は少し不安になりながらも、彼に行動の自由を許した。
宇宙人に壊された家の一部は彼がどんな術を使ったか、菜乃花には分からなかったがとにかく、修復されて元通りになっている。琥珀は電気もつけずにソファに座って外を見ていた。月明かりに照らされている庭には特には何もない。彼は庭に続く窓を開けて、庭に出た。塀で囲まれているため、外を見ることは出来ない。見えるのは空だけだ。彼は外側から窓を閉めると、軽く跳んで、屋根の上へと上がった。そこから宙を見上げる。彼にしか見えていないが、そこには空を飛ぶ妖怪が見えていた。地上を見れば、影を伝いながら動いている妖怪も見えた。
「……」
彼が何を考えているのか、それは誰にも分らない。彼自身も自分と言うものを確かに持っているわけではない。ただ、今は菜乃花に助けられたから、彼女の力になろうとしているだけなのだ。彼は自分を今世の自分を自覚するためには、まだまだ生まれたばかりだった。
この町にはオカルトで語られる化け物が引き寄せられている状態で、この世界に広がるこっくりさんという降霊術は十中八九、成功するわけがなかった。だが、この町に関しては例外だった。この町で広がっているこっくりさんは正しい降霊術だった。そして、その儀式によって呼び出されたのが琥珀と言うわけだ。だが、こっくりさんを行った人たちは生まれたばかりの彼の力を使ってしまったので、その対価として魂の一部を回収され、魂のバランスが崩れた人たちは正常には生きることが出来なくなるだろう。いっそ、魂の全てを回収されればどれだけ幸せだったか。それでも、こっくりさんで行うのは、どんなことにもこっくりさんが回答してくれるというだけだ。質問の内容にもよるが、こっくりさんで質問するは大抵、胴でもいいことだ。そのせいで対価が魂の一部となってしまう。それを繰り返し、何度も何度も行わされているのが琥珀だ。正しい儀式によって呼び出されてしまうのが、彼だった。その度にこの世界で生きては、長い時を現世で過ごし、やがてこの世界から消失する。その度に、記憶や感情が曖昧になり、そのまま次の呼び出しに応じるしかない。九尾と言う種族ではあるものの、彼は少し特別な経緯で長生きしていた。だから、彼は他の九尾とは性格も、根本の存在する意味も違う。彼は人間のために行動させられているようなものだ。だが、それは本能に近いのだろう。
彼は空をぼうっと見ながらも、菜乃花に力を貸そうという意志だけはそこにあった。決意なんて強い物でもないが、簡単に捨てようと思えるものでもない。
「菜乃花のご飯は美味しいからな……」
彼は立ち上がり、庭に降りる。そして、部屋の中に入り、再びソファの座る。そこからまた窓の外を見ていた。月は雲に隠れず、彼が見つめている庭を照らしている。
翌日。菜乃花は午前十時頃に目を覚ました。学校のことを思いだしたが、今日は行く気にはならなかった。彼女はゆっくりと階段を下りていく。そして、リビングに移動すると、ソファに座っている琥珀が彼女に気がついた。
「おはよう。遅い起床だな」
「あ、はい。すみません。朝食作ります、ね」
琥珀は彼女の様子がおかしいことに気が付いた。階段を下りてからふらふらとしている。左右に大きく体が揺れて、足取りもおぼつかない。彼女は自分がそんな状態になっているのにも気が付いていないようだ。
「お主、ふらついているな。少し休みなさい」
琥珀は揺れる彼女の肩に片手を置いた。そこに力は入っていないのだが、彼女はその力にも抵抗できなかった。くるりと体を反転させられて、更にふらつく。その勢いのまま、琥珀の胸に顔をぶつけるような体勢になった。
「あ、あれ。私、は……。竜花ちゃん。蓮花、ちゃん。猩花ちゃん……」
彼女はうわごとのように三人の名前を繰り返し読んでいるが、意識は既になくなっていた。




