長女の役目 3
菜乃花が部室から出ていってからも彼はずっと竜花の近くにいた。菜乃花もいない中では猩花を一人にすることは出来ない。猩花の死の未来を回避できたのかどうか、それが確定しないうちは、彼女を一人で行動させるわけにはいかないのだ。菜乃花がいれば、彼女を守ることもできるだろうが、どうやらその責任すらも今の彼女には耐えられないようだった。その考えがわからないでもない白希だが、ここでそれから逃げて、最後には自らの心と戦わなくてはいけなと言うのは実体験でわかっていた。菜乃花に助言することは出来るだろうが、結局はその心の中に問題はその心を持つ当人しか解決することが出来ない。そして、必ずしも助言が良い方向に流れを作るとも限らない。助言しようにも、彼女が戻ってこないことにはどうすることもできない。この場所から移動できないのだから、もし菜乃花の居場所がわかっても、彼女の下まで行って、助言するなんてことは出来ない。そして、あの様子で出ていったのだから、すぐには戻ってこないだろう。白希もそうなったときは、すぐにみんなのところに戻ろうとは思えなかったのを覚えていた。
(今は何もできないかな。一人で無茶をしないと良いんだけどね)
その心配も彼自身がやったことを未だに覚えているからだ。何かしたくて、強力な魔獣の討伐依頼に挑んで、死に目に遭ったのは今でも昨日のことのように思い出せる。彼女も一人でオカルトと戦うなんてことをしなければいいのだが、と考えるが、それはもはや無駄な思考なのだろう。心配しても祈ってもおそらく彼女は一人で何かしらの化け物と戦うだろう。それは未来を視ずともわかることだった。
(竜花ちゃんは大丈夫かしら。でも、私が戻ってもできることなんてないし)
彼女は俯きながらゆったりとした速度で、商店街の近くを歩いていた。 既に放課後で、彼女は部室には心理的によることが出来ずに、大学が終わるのと同時に学校から出てきていた。竜花たちのことは心配であるが、白希がいるため、必要以上には心配してない。竜花たちよりも蓮花のことの方が心配である。白希が様子を見ることが出来るようだが、蓮花がどこに居るのかも菜乃花は知らない。これまでずっと一緒に行動してきた姉妹がバラバラになってしまった。これまでそう言うことがなかったわけではない。特に竜花と蓮花はすれ違いが多く、喧嘩もすることも少なくない。だが、こんなに姉妹の心がまとまってないなんてことは初めてだ。それは白希が来てからこうなっているわけだが、菜乃花はこの状況を彼のせいにはしないだろう。もし、こうなったのが彼のせいだとしても、それ以上に救われすぎている。今日の猩花と竜花の命を救ったことだけではない。竜花は会話をするときに相手のことを多少考えるようになっているようだし、猩花も素の子供らしさで彼の甘えている。蓮花も彼がいなければ考えなかったことが沢山あるようだ。おそらくそのせいで戻ってこれないのだろう。そして、菜乃花自身も彼の影響を少なからず受けている。そのせいで、こんな状態になっているのだ。彼の強すぎて自分の無力感を感じている。それをどうにかしたいと、強くなりたいと願うことは彼がいなければ、彼女がそう願うこともなかっただろう。
考え事をしながら歩いていたせいか、彼女は路地の中に入っていた。道幅が細く、日の光も入りにくい場所だ。まだ夕方だが、既にその道は暗い。道の両隣にある家が光を遮っているのだ。彼女は辺りを見回して、元の大通りに戻ろうとしていた。しかし、どれだけぼうっとして歩いていたのか、大きな通りは歩いてすぐの場所にあるというわけではなかった。
(いつの間に。……いや、既にオカルトに捕まってる?)
そう考える方が納得できる。不可思議な現象は勘違いではない可能性の方が高いのだ。
そして、おそらくこの現象を起こしている原因のオカルトが彼女の前に姿を現していた。それは狐だった。こげ茶のフラフ和していそうな毛を持ち、細く鋭い瞳が彼女を見つめていた。睨んでいるわけではないようだが、ただじっと見られているというのも怖い。そして、彼女はその狐の尻尾が一本でないことに気が付いた。正確に数はわからないが、明らかに尻尾が五本以上に分かれているのだ。その瞬間に彼女の体から血の気が引いていく。それもそのはずで、こういった動物の尻尾は大抵一本だけで、それ以上になるとオカルトの分野になってくる。それも妖や物怪と呼ばれている昔からいるとされている者たちだ。そして、その尻尾の数が多いほど、長く生きていて、強力な力を持っているとされているのだ。五本以上の尻尾の狐、おそらく正確に数を計れば尻尾は九本あるはずだと、彼女は考えていた。もし、彼女が考えている物怪であるなら、彼女はどうあってもその物怪に勝つことはできない。




