長女の役目 2
竜花の傷が癒えたその当日。竜花は部室の中で休むことになった。保健室よりも自宅よりも、安全な場所であるのがあの部室なのだ。完全な安全地たちと言うわけでなくとも、あの場所に干渉できるのは相当な力を持った相手だけらしい。それをあの赤いドレスは干渉してきたように感じる。
(ただの偶然だったらいいんだけど。多分、そうじゃない)
やはり、彼女を一人この場に残しておくというのがかなり不安だった。それほどの力を持った奴が沢山いるというのは、それはそれで困るのだが、今は相手の正体を考え続けても意味がない。
「朝野菜乃花、僕がこの場所にテレポートできるようにはできるのか?」
「それは、私にはできません。蓮花ちゃんじゃないと」
「わかった。じゃあ、許可をもらって来るよ」
彼はそう言って、猩花に部室の扉を開いてもらい、外に出た。彼の目的は蓮花に会い、あの場所に一人でも入ることが出来るようにしてもらうことだった。
彼が出ていき、部屋の中は静寂になっていた。彼は部室を出ていったが、その時に眠っていたプロイアはこの部室に預けられている。眠っている彼女一人では心配だとファスもその場に残っている。これで、一応蓮花の許可が無くとも、この場にテレポートすることが出来る。白希がテレポート先をプロイアかファスの近くと指定すれば、それで戻ってくることが出来るはずだ。この方法は結界の中と外でも使うことが出来た。その代わり、使った方は酷く酔ったような状態になるが、それは彼にとっては些細なことだ。
朝野姉妹の部室の中では猩花が、竜花の周りに人形を並べていた。彼女なりに、竜花を元気づけているのだろう。竜花が眠っているのは精神的な疲労によるものだ。次に起きたときには精神も普通に生活を送ることが出来る程度には回復しているはずだ。
今回の件で一番、精神的なダメージを追っているのは竜花でも猩花でもないだろう。妹たちが攻撃されたり、誘拐されたりしようとしているところで、何も出来なかった長女だった。自身の超能力は確かに強いという自覚はあるものの、その弱点が多いことも理解していて、それを割り切って使っていたはずだ。だから、太陽があるところではその力が使えないこともわかっていたし、たとえ使ったとしても強化どころか弱体化することは明白。だから、今回のことも仕方ないと、頭の中で理論を自身に言い聞かせているのだが、心はそれを拒否している。たとえ、弱体化しているとしても人よりは強かったのではないか。竜花をあんな状態にするようなことにはならなかったかもしれない。傷も半々で受けて、もっと症状を軽くすることが出来たのかもしれない。今回うまくいったのは、明らかに白希がいたからだ。もし、彼との縁が無かったら、竜花も猩花も死んでいただろう。それは仮定の話ではあるもののその未来が白希との縁がないという一点で変わっていたという認識はどうしてもしてしまう。
(私は、長女なのに、妹たちも守れない……)
ただでさえ蓮花が出ていったショックがあった中で、この事件。彼女の心に高い負荷がかかる。何かしなくてはと言う考えが働き、その何かが戦うという結論を導いていた。その過程は難しくない。白希を抜いて考えると、今戦えるのは菜乃花と猩花だけ。猩花にも本当なら戦ってほしくない。そうなると、戦える戦力は自分だけになる。いや、最初からそうしていればよかったのだ。彼女たちにも超能力があることはどうしようもないが、戦わないという選択肢を強制することもできたわけだ。オカルトや他の超能力者は超能力を使い付着けなければ、感知される確率はかなり低くなるのだ。そうすれば、菜乃花だけで戦い、こんな傷つくこともなかったかもしれない。仮定の幸福かもしれない未来を思い描いてしまう。そこまでの仮定には全く意味がないというのに。
沈んだ心はついに身体に異常を引き起こす。体が重くなり、立っていられない。自分のスペースにあるベッドの上に腰を下ろし、そのまま横に倒れる。足をベットの上に移動させることすら億劫だ。
(今日は、もうだめかもしれない)
沈んだ心では、どうにも明るいことを考えることは難しかった。手の甲を額に当てると、額は熱かった。熱でもあるのかもしれない。それなら、この体のだるさも理解できる。だが、やはりそれとは別に心は沈み続けた。
それから、一時間半ほど。白希が自ら扉を開けて、その中に入ってきた。どうやら、しっかり話を通すことが出来たらしい。そして、扉を開けた彼の後ろには蓮花がいた。彼が扉を開けて、中に入ると蓮花はすぐその後ろから前に出て、竜花が眠っている方へと急ぎ、寄る。竜花は既に落ち着いた寝息を立てていて、重症だったことなんてわからないだろう。蓮花は安堵したのか、彼女の横に座りこんでしまった。だが、それでもすぐに立ち上がった。
「今江さん。竜花のこと、宜しくお願いします。また無茶をすると思いますが、どうか、助けてあげてください。今の私にはそうする資格もありません」
蓮花はそれを一方的に言うと、部室から出ていった。




