ひきこさん 3
テレポートした先は宇宙人と戦った森の浅い場所にある廃墟だ。明るい灰色のボロボロの壁で窓ガラスは全てなくなっている屋根の大半もなくなっている。一階の一部なら人が潜むことは出来るだろうが、一般人ならそこに住もうとは思わないだろう。つまりは相手は人だろうが、化け物だろうが、話が通じる相手だと思わない方が良いだろう。彼は森の木々を背にして、こっそりと廃墟の中を見ていた。幻の魔法も音と姿を遮断する魔法も使えないため、いつも以上に慎重に行動するしかない。プロイアとファスの超能力は使用できるが、彼女たちがいなければ、魔気を操ることは出来ない。つまりは土と風の魔法はほぼ使えないということになる。フレイズとミストのみが魔法の頼りになってしまう。
(手間取るより、崩壊で一撃死を狙う方が良いかもしれない。それも考えの中に入れておくことにしよう)
木と茂みの影から廃墟の中を見ようと顔を出す。ガラスなどもなく、地面からなら一階はほとんど見えている。その中に猩花の姿を見つけるのは難しくなかった。だが、彼女を見つける前に、彼女より大きな熊が彼女の前に立っていた。デフォルメされた熊の前には、中性的な見た目の人間がいた。腰の辺りまで髪があり、ボロボロの白かったであろう服を着ている。前髪も長く、その人物の顔を見ることは敵わない。下に履いているズボンも穴だらけの綿パンだ。それらの服はボロボロと言うだけでなく、明らかに生物の血がついている。その人間のものではなく、それが攻撃した時に着いた返り血のようなものだろう。その人はその場から跳躍して、熊のぬいぐるみ、小太郎を殴りつける。よく見れば、小太郎の体から白い綿が飛び出しているところがある。今は少量だが、ぬいぐるみにとっては大ダメージかもしれない。もしあれが人の血肉の役割であるなら、綿が出続けているというのは明らかにまずいことだろう。彼はそれを認識した瞬間に隠れ続けることなどできずに飛び出していく。
「フレイズッ! レッドドラゴンブレスッ!」
廃墟の中に勢いよく入っていき、魔法を放つ。彼の前にできた火の球から相手にむかって火炎放射がばら撒かれた。相手の不意を突いた攻撃。だが、それはほとんど当たらなかったようだ。とっさに後ろに下がり、相手はその魔法の攻撃を回避したのだ。
「ミスト。フルヘイズ」
彼が魔法を詠唱すると同時に、彼の周りには霧が立ち込める。通気性のいい場所のはずだが、霧はその場に留まり続ける。この場にいる全員が視界不良となる。だが、白希だけは視界が無くとも行動できる。彼は相手に追撃することなく、猩花の元に移動する。
「……お兄ちゃん?」
猩花は戸惑っているようだ。先ほどまで戦っていた小太郎をぎゅっと抱いている。もしかすると、本当にギリギリだったのかもしれない。彼女の超能力で意思が芽生えるのかはわからないが、誰かが助けにくるまで、彼は彼女を守ろうと戦っていたのかもしれない。何にしても小太郎と倒れて、猩花が傷つけられる前に助けに入ることが出来たのは僥倖だ。
「猩花、テレポート――」
「逃がさないぜ!」
霧の中を、霧を払うようにして飛び出てきたのは中性的なあの人物だ。声を聞いてようやく相手が男だということが分かった。霧はまだ立ち込めているはずなのに、的確に白希を狙うことが出来たのが不思議でならないが、今はそんなことを言っていられない。彼の不意を突くことは出来たが、ミストは相手の行動が視えていた。だからこそ、水の壁を作り出して、相手の攻撃を受け止めていた。
「なっ。魔法使いかよ。はっ、ファンタジーめっ」
男の言っていることはわからないが、可愛い小学生を攻撃している時点で、理解の範疇を超えている相手だ。
(こいつは、生かしておく必要はないな。どうせ、こういう手合いは話を聞きやしないし)
彼はいつものように対話をすることを諦めた。竜花をあの姿にした時点で許すはずもない。彼は改めて、テレポートで猩花をプロイアとファスが竜花を治癒している場所へと飛ばした。それから、霧を払った。自分で使用した魔法だ。霧を晴らすのも意のままだ。
「あっ。お前、せっかくの得物をどこにやったんだっ?」
どことなく馬鹿っぽい話し方をする奴だなと彼は思った。命令されてやっているという感じではなく、自らこうやって人を傷つけているのだろう。こんなやつは殺してやらねばならない。
「答えないつもりか? なら、いいぜ。お前をぶっ倒してまた連れて来てやるぜっ」
「フレイズ、チェインアサルトレイ」
彼がそう命じると、彼の周りに小さな人の指先程度の大きさの火球がいくつも出現した。




