ひきこさん 2
翌日から白希が竜花を迎えに行き、猩花を菜乃花が迎えにいた。その日は何もなく、部室まで移動することが出来た。それから三日ほど、特に何もなく、日が過ぎていく。
四日目。三日まで何も起きなかったため、彼は登校の時点で、無意識にこのまま何もないのではないかと考えていた。妖精たちも周りに注意を向け続けるのにも疲れ始めていた。それもそのはずで、彼女たちが起きている間は白希と共に周りを警戒しているのだ。精神をすり減らすような行為を続けていれば、いくら妖精と言えども、心は疲れてくるのだ。だが、その疲労と油断が一気に引き締まる。
「シラキっ。猩花が一人で、学校じゃないところに行こうとしているわっ」
「なっ。このタイミングかっ。ファス、案内を頼む」
彼の頭の上にいたファスが彼の頭を叩いて、自体を知らせる。白希も朝に来るとは警戒していなかった。それに猩花は麻は菜乃花も竜花も一緒に登校しているはずだ。今日に限って一人行動を許したということはないだろう。猩花が攫われたか、菜乃花も竜花も歯が立たずに、猩花が連れ去られているか。
(そうなると……)
彼の頭の中に嫌な想像が勝手に浮かんでくる。竜花の回避できる死はこの瞬間かもしれない。朝と言う時間にヴァンパイア状態にはなれないはずだ。なったとしても大した戦力にならないだろう。菜乃花は変身する前に誘拐犯に攻撃されて致命傷を受ける前に気絶し、猩花と菜乃花を守るために竜花が戦う。竜花は超能力を使い限界まで戦うだろう。すると、彼女は肉体のダメージの許容量を超えて戦うことになるだろう。いつもは四人で一つの化け物を倒すような戦力だ。一人になれば、それだけの誘拐犯を倒すことは難しいかもしれない。
(今、行くべきは猩花のところじゃない)
「ファス。竜花か菜乃花のいる場所までテレポート、できる?」
「まっかせなさいっ。じゃ、行くわよっ!」
彼女がすぐに彼のお願いを聞いて、テレポートを実行する。
転移先は商店街だった。まだ店も開いておらず。そこには誰も通っていない。
(誰もいない? それは少し奇妙だな)
商店街は店が開いていなくとも、誰でも通行することが出来る。朝には学生も通るだろうし、この道を使って通勤や散歩をする人だっているだろう。少なくとも誰もいないという状況がおかしいのだ。彼は誰もいない商店街を見渡すと、近くの路地に菜乃花がしゃがんんでいるのを見つけた。その視線の先には口から血を吐き出し、頭からも血を流している竜花がいた。制服の中からは赤黒くなった包帯が地面に延びている。右足は本来であれば曲がらない方向へと軽く曲がっている。そんな状態で彼女は苦しそうに息をしている。彼の顔から血の気が引く。自身の予想を上回るほどの惨状。一撃死と言うことはないだろうと考えていたし、彼女なら白希自身が助けに入るまで耐えられると思ってしまっていた。彼女たちの実力の無さは知っていたはずなのに、彼女を信じ切ってしまっていた。彼は竜花の肩の辺りに触れて、治癒の超能力を使った。彼女を知覚で見れば、あざや腫れている部分なども数えられない程ある。切り傷などはない。それが余計に彼女を苦しめている。彼女の怪我を見た用すではどうやら相手は、打撃系の攻撃をしてくるようだ。
彼女に治癒の超能力をかけ続けると、徐々に傷が回復していく。このまま回復を続けていれば、彼女の傷は治るだろう。そして、その様子を菜乃花は心配そうに、自身の無力感を感じながら見つめいていた。
「シ、シラキ。しょう、かを、たすけ、て。おねがい」
彼女は絶対に治り切っていない腕を彼の腕に伸ばして、服をぎゅっと掴んでいた。全身が痛むはずなのに、妹の心配をしている。
「わ、たしの、ちりょうはあと。はやく、いって」
彼女は白希を睨みつけるようにして、見つめている。彼はそこに強い意志を感じた。だが、この状態で彼女を放置すれば、死んでしまうのは明らかだ。病院でも治療なんて間に合わないだろう。少なくともあと十五分くらいは治癒しないと、病院で一命をとりとめるという状況にすらならないだろう。
「シラキさん。私が残ります。残って治癒を代わりに行いますから、猩花さんを取り戻してきてください」
彼が悩んでいると、プロイアが竜花の肩に当てていた手に自身の手を重ねてそういった。彼は言葉に詰まる。確かに彼女がここに残れば、治癒することは出来るだろう。そもそも彼の治癒の超能力だってそもそもはプロイアのものだ。だが、この状況で彼女を一人ここに残していくというのは、心配なんてものではない。この状況で誰かに狙われてしまえば、プロイアは確実に誘拐されるだろう。幻の魔法だって彼女一人の場所では効果は長くは続かない。
「仕方ないわね。ファスもここに残るわ。ファスのテレポートがあれば、逃げられるし。ほんと、仕方なくなんだからっ」
それでも状況はあまり変わらない。もし万が一にもテレポートが発動しなければ、二人は連れ去られる。
「わ、私が守ります。全部、全部」
最後に彼の横に立ち、自信なさそうにして言う菜乃花の姿があった。彼女の超能力では頼りにならないのは間違いない。この状況がそれを物語っている。もし、奥の手を隠しているのだとしても、おいそれと使うことが出来ないのなら、状況は変わらないだろう。それでも、三人がそう決意しているのだから、その決意を無下にすることもできず、彼は三人にこの場を任せて、猩花の位置を聞いてテレポートした。




