竜花の友達 3
白希が竜花の教室に来たその翌日。昨日はあれだけ白希が来たことに騒いでいたが、翌日にはその騒ぎも収まっていた。朝野姉妹と並ぶ、話題になる人が竜花を迎えに来たというのは間違いないというのに、彼女に話しかけようとする人はいない。おそらく、彼が迎えに来たのが彼女でなければ、もっとこの日も騒がしくなっていたことだろう。少なくとも、その迎えに来てもらった人は質問攻めにされることだろう。だが、誰もが腫物のように扱う彼女だとすれば、昨日のことについて質問するなんてことは誰もしない。竜花は特に質問されるかもとは考えていなかったが、それでも白希のことについて少しは質問されるかもと期待していたため、拍子抜けだった。少しはクラスメートと話す機会が出来るかもしれないと期待していたこともあり、少しだけ、本当に少しだけ気落ちしてしまっていた。
彼女は教室に入り、自分の机に鞄を置く。話しかけられずとも、彼女は眼帯もツインテールもやめていない。彼女は教室を見渡して、誰も話しかけてこないとわかっているのに、それを期待してしまっていた。そんな中、三人の男子生徒が彼女に近寄ってきた。その三人は、昨日白希に倒されていた男子生徒だ。彼女を睨み、見下ろしている。その様子を教室にいた生徒が見ているが、彼女の助けに入ろうとする者は一人もいない。それは彼が怖いからと言うわけではない。そもそも、彼らの中ではこのクラスでいじめなんて発生していないのだ。それはつまり、その男子生徒はクラスメートからしてもただの騒がしいお調子者たちと言う印象で、彼らがいじめをしているとは思っていないからだ。彼らも誰かをいじめているという意識はないし、竜花に話しかけに行かないというだけだ。彼女が話しかければそれを無視するなんてこともない。ただ、彼女のことが受け入れがたいというだけだった。
「なぁ、今江白希ってどんな奴なんだ」
彼がそう問いかけると、教室の全ての人がそれに耳を傾けた。それまで友達と話している人も、読書をしている人も、宿題をしている人も全員が彼女の言葉に耳を傾けていた。
「どんなって、普通の、いや、ボクとライバルになるほど強い人だよ」
彼女は両の掌を肩のあたりまで上げて、彼の強さと自分の強さが同等であるかのように喋る。だが、彼女はその手を降ろして、彼らに視線を向けた。
「本当は、恰好良い人だよ。ボクだけじゃなくて、姉ちゃんも妹も白希を頼りにししてるんだ。そして、それでもそんなの重荷でもなんでもないかのように振舞って、悩みを解決してくれる、そんな人だよ」
彼女が口を開いて、それが普通の、周りにいる人と同じ言葉で、似たようなテンションで話しているのを、そこにいる誰もが初めて聞いただろう。彼女に質問した男子も固まっている。彼女はそれを驚きではなく、無理解だと受け取ってしまい、片手を頭の後ろにやって、照れ笑いした。
「はは、ちょっと真面目過ぎたね」
口調こそ、彼女らしい堂々としたものだったが、彼女の顔は赤みを帯びていた。頬を赤くしながら照れてはにかむ彼女に何も思わない男子はいないだろう。元のスペックは他の朝野姉妹と同等なのだから。
彼女のそんな顔を見てしまい。目の前の男子生徒自身も照れていた。耳だけでなく、彼女に視線を向けて彼女の話を聞いていた人たちもその顔に心を掴まれてしまった。
(ちゃんとしてれば、可愛いな)
彼女の様子を見ていたクラスメートはそんな感想を抱いていた。しかし、すぐに彼女に話しかけるというのは難しい。誰もが腫物扱いしてきたのだから、自分だけ勇気を出して、彼女に話しかけにというのは、彼女のその顔に惚れていると言っているようなものだ。中学生であるクラスメートは謎のプライドが邪魔をして彼女に話しかけることが出来ない。
彼女に質問した男子生徒はそうかとだけ言って、彼女の傍から離れていく。彼女はそれだけでも、少しだけ嬉しかった。クラスメートからそうやって話しかけられたことが嬉しかったのだ。事務連絡ではなく、自分の周りのことについて話すことが出来たことが嬉しかった。彼女は機嫌をよくして、鼻歌でも歌いそうな様子で、鞄から教科書などを取り出して、授業が始まるまで、ライトノベルを読んでいた。
授業が終わり、彼女は荷物をまとめる。鞄の中に適当に、教科書やノートなどを入れて、教室を出た。今日は掃除当番でもないため、すぐに部室に行くことが出来る。彼女は少しだけ急いで、部室棟へと向かった。
「あ、ちょっと待って。ください」
彼女が玄関で靴を履き替えていると、彼女の横にいつの間にか立っていた男子せいとから声を掛けられた。その男子生徒は、彼女のクラスメートではない。そして、彼女の後ろにもう一人いる。その生徒は女子で、彼女の近くにいる男子生徒と同じ色の髪をしている。男子は髪を整えていないのか、多少ボサボサで、女子生徒は綺麗なポニーテール。初めて見たはずだが、二人はかなり対照的に見えた。




