沈んでいても 4
(今のは、王子様だった。確かに王子様だった)
校舎の屋上。そこに一人の女子生徒がいた。彼女は部室棟の方へと入っていく彼を遠くから眺めていた女子生徒だ。彼女の名前は畑夕来。彼女は校舎の屋上から部室棟の方へとスマホのカメラを向けて何枚か写真を撮っていた。その前にも何度も写真を撮っていた。彼女はスマホをカメラから撮った写真の一覧へと画面を変える。そこには白希の写真ばかりが並んでいるが、今日の日付の欄に乗っているのは少しばかりいつもとは違う。いや、一般人である彼女から異様ともいえるだろう。それは、白希が女性に襲われている写真だ。だが、常に彼が優勢で、彼が負けるとは到底思えない戦いだった。結局、まるでテレポートをするような速度で相手の後ろに回り込む、どこからか取り出したホースで相手を封じて、どこからか問いだした水の塊で相手を束縛して、地面の中に埋めていた。地面に穴を開けるのはどうやったかなんてわからない。彼が手を触れずとも地面が勝手に穴になっていくのだ。そして、最後には空中からいきなり土が出現して、それがいつの間にか地面を補填していて、今見てもそこで人を生き埋めにした現場には見えない。
(魔法みたいだった。さすが王子様って感じ)
どう見ても信じることなどできるはずがないのに、彼女は白希がやったというだけで、それが現実で起きたことだと認めていた。彼ほどの人間なら魔法だって使えるだろうと本気で思っている。
(でも、この女、私の王子様に傷つけようとしていたわ。もし、次に似たようなことがあるなら、そいつは殺さないとね)
屋上には彼女以外の人はいない。それもそのはずで、屋上はフェンスで囲まれているものの、いつでも使用禁止だ。教師も生徒も立ち入ることは禁止されている。用事があるならそれを申請してようやく入ることが出来る場所。彼女はそこに誰にも言っていないし、神聖なんてしていない。だが、そこには簡単に入ることは出来ない。形だけの申請ではなく、屋上へと続く扉の鍵は安い南京錠がついているだけではない。南京錠が二つと番号で解除できる電子ロックがついているのだ。だから、一般の生徒は申請すれば屋上に出ることが出来るということすらも知らない。夕来はその頑丈なロックを全て外してここにいる。それも計画的に電子ロックの番号を知り、ピッキングで二つの錠を開けて、ここにいるだ。彼女にとってはこの屋上と言う場所は好きな人を観察するには適切な場所なのだ。
そして、観察しているところから、白希が部室へと移動するのを見送り、彼女は再び自身のスマホで取った写真を眺めていた。その視界の隅には未だ部室棟が映っている。彼がいなくなって数分。彼が地面に埋めたはずの赤い服の女が地面から這い出てきているのを彼女は見てしまった。
(しぶとい人。あの女性は王子様の邪魔をしないように、退治しておきましょう)
彼女はそれをじっと見ていると、赤いドレスのそれも彼女の視線に気が付いたようだ。夕来は今すぐに相手のところに出向こうとしていたのだが、その前に赤いドレスが驚異的な身体能力で、屋上に来てしまった。
「あたしの憂さ晴らしにつきあってもらおうかねぇ」
赤いドレスは腕組をしながら、その手に持っているナイフを上下に軽く揺らしている。先ほど、白希と戦っている途中で会話をしているようなところで、同じことをやっていたのを彼女は思い出していた。
彼女には超能力なんてものはない。だが、想い人に好かれるために様々なことに手を出した。そして、その全てを一般人を超えるレベルにはうまくできるようになっていた。その中での、彼の見た目が微笑であることで、誘拐されるような危険があった時のために、様々な格闘術を覚えた。格闘術だけではなく、あらゆる武器を扱えるようになっていた。それをしたことはないが、おそらく彼女はボールペンでの暗殺すらこなせるだろう。筋力的に不利でも、それを利用してかつ体の動かし方も全て覚えている。彼女は元から天才であったのだろう。その上に、恋心ゆえの努力を始めてしまった。
「っ」
相手が地面を蹴り、一般人の彼女の目には負えない程のスピードで肉薄し、振るわれたナイフを彼女は軽く後ろに下がり回避した。相手はそれに驚いている。それもそのはずで、屋上にたまたま女子が超能力者だとは思わなかったのだ。そう勘違いするほどに彼女の動きは超人的だった。相手が驚いている間に、彼女は跳躍して空中にいる相手の体の下に自身の体を潜りこませていた。それと同時に、ポケットの中にしまっていた折り畳みナイフを取り出して、その刃を相手の腹に突き刺した。相手が動いていない状態であれば、そんな簡単には刺さらないだろうが、一瞬で距離を詰めるほどの勢いがある状態では、それを利用すれば、すんなり刃が通る。突き刺さったナイフを素早く捻り、ナイフを引き抜いた。




