沈んでいても 3
赤いドレスの相手はナイフを振り回し、彼は攻撃をつけ続けている。だが、彼は一撃も受けることなく、相手に語りかけ続けている。
「どうしても話を聞いてくれないのか。僕には君が攻撃を止めたときに攻撃するなんてことはしない、絶対に」
「……うるさいねぇ」
彼の言葉にいらだった様子で、頭をガシガシと掻いている相手の姿があった。髪を書くと髪についていた赤黒い何かがぱりぱりとはがれて、宙を持って地面に振る。
「ずぅっと無視してやってるんだ。それで気が付け」
粗暴な相手の態度に彼は驚いていた。その隙を狙うように相手は地面を蹴って、相手に一瞬で近づいた。ナイフは既に振るわれ始めていて、彼の目の前までナイフはせ待っていた。だが、そのナイフが彼に届くことは絶対にない。彼は一人で戦っているわけではないのだ。
彼の目の前に迫ったナイフは水の壁によって軌道を逸らされていた。ミストが彼の肩の上で、彼の顔の方へと手を出していた。彼女はただでさえ、ジト目であるが、今回は更にジト目になって彼を見ていた。
「注意散漫」
「あ、ああ、ごめん。ありがとう」
彼がそれだけ言うと、彼女のジト目の強さが少し緩んだきがした。それに満足したのか、彼女は再び視線を正面に移している。相手は既に近くにいない。彼の前で片足の力を抜いて、腕を組んで、ナイフを上下に軽く揺らしながら立っていた。
「ちっ。面倒な相手だねぇ」
相手は態度の悪いのを隠そうともしていない。
「……戦わないといけない理由はある? 力の強さだけが全てじゃないはずだ」
「はぁ、馬鹿だね。若いからしゃあないのかね。まぁ、攻撃される理由くらいは知りたいかい。なら、そうさね。理由はあたしが人殺しってのをやってるからさ。あんたの思っているような善人的な理由じゃなくてね。そうしないと、あたしゃ狂っちまうほど、これが好きらしいんだ」
相手は喋りながら、口元がにやけていった。それは何を思ってのことなのか、彼には理解できない。だが、彼女の言っていることには一つも嘘は入っていない。彼の考えるような人ばかりではない。いや、彼の考えているような心や思考を持った人の方が少ないだろう。
「そっか、わかったよ。君は本当に人じゃなかったってことだね」
彼がそう言うと、相手は彼に向かって三度攻撃を開始する。
「やっとわかったかいっ?」
そう言いながら、相手はナイフを振り回す。だが、既に彼はそこにはいない。相手の後ろにテレポートしていた。そして、掌を相手の背中に向けている。
「ミスト、レイジングストリームッ」
彼の掌の前に水の塊が出現する。それは彼の掌よりも大きくなると、そこから彼の前方に水圧の高い水が噴き出した。それは相手の背中にぶつかる。相手は地面に押さえつけられるような体勢でそこから抜け出そうともがいている。
「これじゃ倒せないか。ミスト、アクアビスケス」
彼がそう唱えると、彼の出した高水圧の水が相手を包むように移動する。そのまま、相手の体を包み込み、そのまま相手の動き自体を封じる。相手が水の中で蠢いているのはわかるが、それ以上には行動できない。
「悪いね。僕は敵対するなら、徹底的にやるのが信条なんだ」
彼自身も気が付いていないが、彼の口角が少し上がっているのを、相手は見ていた。その笑みは明らかに自分が相手より格上だとわかり切っている余裕のあるものだ。そして、それは相手をいたぶるのを楽しんでいるようにも見える。彼自身にそのつもりはなくとも、粘性の液体に相手を閉じ込めて、相手を見下す位置から、そんなことを言えば、嗜虐心があると思われても仕方ないだろう。
「命までは取らないと言いたいところだけど、君はオカルトだ。どうにかしないとまた僕らの襲書かって来るだろ? だから、地面の中に埋まっててくれ」
彼のがそう言うと、ファスが気を利かせて、相手の下の地面を円状に掘り下げた。土の魔気を操作して、穴を作っていく。一気に下まで穴が空くわけではなく、徐々に下に掘られていく。相手の体の下にある地面が徐々に高度を下げていく。相手の視界が徐々に下に下がり、視界の中から白希が消える。相手の視界の中にあるのは土だけだ。やがて、地面が相手の体の横幅の三倍ほどの高さの穴が作られると、そこで掘り下げることを止めて、次にはその上から徐々に土が掛けられていく。それも一度に全ての土を駆けるわけではなく、徐々に土を駆けるのだ。相手の体にも徐々に積もる土の重みを感じているだろう。
だが、相手は抵抗を見せない。相手を閉じ込めている粘性の液体も動かない。それはつまりその中でさえ、体を動かしていないというわけだ。オカルトは死の概念を持たない。地面の中に封印されるだけで、それはオカルトの死ではないのだ。彼らには死への恐怖はない。大人しく封印されているのを不思議だが、とにかく相手を土の中に封じることは出来た。最後にファスと共に、地面を鳴らして終わりだ。地面の中にいれば、動けるようになってもすぐに出るのは不可能だろう。彼はそう考えて、部室の中に戻り、朝野姉妹にその状況を伝えたのだった。




