沈んでいても 1
蓮花のテレポート先はどうやら先ほどの学校の部屋に移動したようだ。おそらく、その場所から遠くに移動することはないだろう。既にばれている場所に移動したのだ。近くにいるとわかれば、急いで連れ戻すつもりもない。蓮花を刺激して、あの男に人質か何かを傷つけたり、壊されたりする可能性が高くなる方が危険だろう。彼はてれぽーとして、部室の前に戻ってきた。彼が姉妹のいるはずの部室の扉を開いたが、その中は何もない埃の被った部屋になっていた。一瞬焦ったが、自分がその扉を開けたことはなかった。姉妹の力がないと入れないということなのだろう。彼は扉を一度締めて、ノックした。すると、勝手に扉が開いて、中に入ると猩花が扉を開いてくれていて、いつも部室に入ることが出来た。
「蓮花おねえちゃんは?」
「ごめん。連れ戻せなかった」
「でも、必ず戻ってくるんだよね」
「ああ、それは約束するよ。絶対にここに連れ戻すから」
猩花の言葉に、かなりの決意をこめてそう答えた。その言葉に込められた決意を菜乃花と竜花も聞いていた。竜花が顔を上げて、彼を見る。菜乃花も身を起こして彼をみた。それもそのはずで、彼が蓮花のために、いや、自分たちのためにそこまでするほどの思い入れを感じていなかったのだ。菜乃花が呼んだから、ここに来ているし、猩花がいなければおそらく彼はここに留まることもないだろう。そんな、自分たちに向けている感情が希薄な彼がそこまでの決意を込めることに驚きを隠せない。そして、竜花が彼の前に出ようとしたが、先に彼の前に立ったのは、菜乃花だった。
「……貴方がそこまで言う理由は何ですか。蓮花ちゃんを連れ戻すなんて、貴方には関係のないことのはずです。それがどういう心境の変化ですか」
菜乃花の言葉は彼を責めるようなものだった。猩花が菜乃花を見つめていた。姉がそういう言葉に敵意を込めている理由がわからないからだった。白希は菜乃花をじっと見て、視線を合わせた。
「朝野蓮花は何かを人質にされてるみたいだ。それを許しておくなんてできないんだ。きっとそれを放っておけるなら、僕は異世界で生き抜くこともできなかったからね。だから、彼女は僕が連れ戻すよ、必ずね」
彼の決意を他人が理解できるはずがない。異世界の出来事なんて、そこにいなかった人が理解できる物ではないのだ。だが、その根本がわからずとも、彼の決意が本物であることがわかるだろう。菜乃花は彼の言葉を否定できるわけがなかった。
「白希、ボクは君を信じることにするよ。いつまでも落ち込んでいたら、蓮花に笑われちゃうからね」
竜花はいつもの中二病の言葉遣いで、彼にウインクした。彼女も少しは調子が戻ったようだ。二人がある程度、会話が正常にできる状態だと判断した彼は、蓮花と話していた男の言葉の中に気になったことあった。
「みんな、いつも戦っているオカルトに発生源があるってことを聞いたことはあるかい?」
「……それは、知っています。発生源は人の想像力です」
菜乃花が小さな声でそう言った。それは彼も理解している。おそらく、蓮花を操っているあの男もそれくらいは知っているだろう。人が想像力を使い、自分が考えたオカルトを広める。ネットでもなんでもいいのだ。そのオカルト話を受け取った人がその話に尾ひれを付けていく。やがて、完成するのはオカルトの化け物だ。くねくねも元はネットの作り話だ。それを沢山の人が見て、それが現実に影響を及ぼすようになるのだ。人の口にも想像力も止める蓋を締めるような手軽さで止めることは出来ない。それを止めるというのは無理な話だ。それはあの男も理解していることだろう。つまりは、それ以外にオカルトを現実に読んでしまっている原因があるということなのだろう。
「……言われてみれば、ここ最近はオカルトの数が多いですね。特に宇宙人が活発に動いている印象です。それ以外のものもそれに引っ張られて活性化しているように感じますね。言われてみれば、と言うことではありますが」
オカルトと戦っている彼女がいるということは、それを信用してもいいだろう。それが何なのかわらないが、それをすぐにどうにかできるというわけでもない。その正体すら詰めていないのだから。
彼女たちがそのことについて考えていると、突然部屋が激しく揺れた。それは一瞬だったが、竜花のスペースにあったフィギュアや、本などが倒れてしまっている。猩花のぬいぐるみも何体かは転んでしまっている。
「な、なんですか!」
猩花が白希の背中によって、彼の服をぎゅっと掴む。竜花と菜乃花は扉の方を見ていた。この空間は扉で外と繋がっているが、この空間そのものは部室棟の中ではない。四人の超能力を合わせて作ったものだ。安全性でも一般人には絶対に傷をつけたり、見つけたりすることは出来ない。
「皆さん。気を付けてください」
菜乃花はそう言うと、超能力を使い、ヴァンパイアに変身した。




