蓮花の不在 4
フレイズに連れられて、校舎の中を歩いていた。足音を立てないように、いつも使っている音の遮断の魔法を強力なものに変えている。異世界の魔法使いすらも騙した音を消す魔法だ。超能力者とは言え、この魔法を使って音に気が付かれるはずがない。
校舎の中でも人の通りが少ない場所を進む。それは彼が意図的にその道を通っているわけではなく、彼女がいる場所が人通りが少ない場所なのだろう。フレイズは彼の少し前を跳びながら、たまに速度を落として、蓮花の位置を確認している。先ほどから、少しも動いていないらしい。ただ、彼女が熱を感じることが出来ているということは、死んでいる可能背はほとんどないだろう。火を抱いて寝ているなんてことさえなければ、彼女は生きている。
そして、校舎の中にこんなところがあったのかと思わせるほど、暗い廊下に入っていく。人通りが少ないせいか、蛍光灯も一個飛ばしや二個飛ばしでしか付いていない。外のひさしのせいで、廊下には全く明かりが入っていない。猩花が少し顔をしかめていたが、小学生には怖い場所に見えるらしい。暗闇と言うわけではなく、蛍光灯が間隔を開けて、点灯しているのが、余計に不安な雰囲気を放っているように感じるのかもしれない。猩花は白希の服の裾を掴んで、彼が前進するのに合わせて進む。薄暗い中を進んでいく。蓮花がこの先にいるのだろうが、見つからないようにこの場所に来たのがわかる。こんな場所に好き好んで入ってくる奴はいないだろう。不良でもこんな陰気な場所ではなく、もっと風通りのいい場所を選ぶだろう。だが、人が誰にもばれずに潜伏するには適した場所だ。
「この部屋の中にいるよ」
フレイズが指さした部屋は廊下側には窓のない部屋だった。扉にも窓はなく、スライドすることで開く扉だ。中の様子がわからない。彼女の超能力を使えば、すぐに逃げることも可能だろう。異世界にも超能力を封じる魔法はない。他人の超能力を特定して、その超能力を使えないように立ち回ることは出来ても、どんな超能力も不能にすることが出来る魔法はない。だが、ここで逃がすわけにはいかないのだ。
彼はその部屋の扉にも音を遮断する魔法をかけて、扉をスライドした。いきなり開けずに中の様子がわかるくらいの隙間を開けた。その隙間から中を覗くと、蓮花が横たわっていた。この部屋の電気も付いていないところを見ると眠っているだけのようだ。さらに扉を開けて、中にこっそりと入る。音を遮断しても気配自体は消すことは出来ない。魔法を使っていても、こういう場所であれば、気配で気が付く者もいるだろう。彼らが部屋に入ったところで、蓮花が体を起こした。すぐに侵入者の方へと視線を移して、それが誰かを確認した。
「私に何か用事ですか」
「幼児も何も、帰って来ないってみんな大パニックだったからな。僕が探すしかなかったんだよね」
「そうですか。それはご迷惑をおかけしました。しかし、私は帰るつもりはありません」
蓮花の言葉には感情が無いように感じた。蓮花に興味がない彼でさえ気が付くのだから、後ろにいる猩花が気が付かないはずがない。
「蓮花おねえちゃん、どうしたんですか? なんか変です」
「……猩花、貴女まで来てしまったのですね。ですが、私は帰るつもりはありません」
白希には彼をあの部屋に返す義務もなければ、それを強制する権利もない。ここで彼女が帰らないと頑なであれば、それをどうこうするつもりはなかった。だが、それは彼女が彼女の明確な意思でそうしたい場合だ。今の彼女は様子がおかしい。この状況にならなくてはいけない何かを持っている。もしくは、こうなるように何かに、誰かに仕向けられている。異世界でも、まだプロイアと最下級の契約しかしていないときに、彼女と仲良くなった誘拐されていたエルフを人質に取られて、プロイアが敵対したことがあった。その時のプロイアと今の蓮花の言葉に感情が乗っていない雰囲気に同じものを感じた。だが、彼女の周りで何を人質にされているのかわからない。朝野姉妹は全員いる。彼女の周りには彼女が姉妹以上に守りたいと思っているような人はいないはずだ。白希は自分のことも考えたが、彼女との絆は姉妹未満であり、友達ですらないだろう。ただの知り合いという関係がしっくりくる。
「……はぁ。とにかく、私にはやることがあるので、さようなら」
彼女はそう言うと、テレポートを使用して、どこかに飛び去ってしまう。
「みんな、テレポート先、どこかわかるか?」
彼女が完全にいなくなったのを見て、彼は妖精たちにそう訊いた。彼女たちはそれぞれに肯定の意を示す。
「さすがだね。じゃあ、迎えに行ってやろうか」
彼はそう言うと、朝野姉妹の部室の近くテレポートした。




