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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
14 蓮花の不在
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蓮花の不在 2

「蓮花おねえちゃんが返って来ないの。昨日、出てってから一度も顔も見れてないの」


 彼女が姿を消した翌日の放課後。白希はまた、朝野姉妹のいる部室に来ていた。そして、猩花から聞いたのは、蓮花が昨日飛び出して言ってからここへ帰ってきていないということだった。竜花が全く喋らなかったり、菜乃花がどこか焦ったように落ち着かない様子を見せているのだ。猩花が言っていることは本当なのだろう。そして、彼女は彼に期待した瞳を向けていた。


「猩花、僕は万能じゃない。すぐに見つけられると期待してもらっても、その期待には応えられないよ」


 彼は猩花の頭に手を置きながら、彼女を諭す。確かに、オカルトの化け物相手に、連勝してきたのは確かだが、それはあくまで戦闘技術の話だ。それに妖精たちがいるからこそ、それなりに戦えるというだけで、彼一人だと、もっと余裕がなくなるだろう。妖精たちによって、様々な知覚を広げているのだ。それだけ気が付けることが多いというだけである。そして、その知覚の拡張はあくまで、近くに相手がいて、相手の行動をある程度読むことが出来るからである。蓮花の居場所の検討もつかない今は、彼女はすぐに探し出すことが出来ない。


「そっか。でも、おねえちゃんを探すの手伝ってくれる?」


「……ああ、わかった」


 蓮花を探すということにはあまり進んで協力したくないのだが、猩花にかわいい顔で頼まれれば、断ることは彼にはできなかった。


「とは言っても、あてはある?」


 それは猩花に向けた言葉ではなかった。猩花との会話を聞いていたであろう菜乃花に問うたのだ。彼女は二人の方をじっと見ていたのだから、今の話が聞こえていないはずはない。菜乃花は今気が付いたというようなリアクションをして、彼の言葉に返事をする。


「いえ、その、思い当たるところはありません。しかし、あの子がどこか止まる場所なんてないと思うんです。人に迷惑をかけることを極端に嫌ってますから、クラスの人に泊めてほしいなんて言わないと思います。それに、あの子はテレポートを使えます。遠くに移動するのもわけないはずです。どうしましょう」


 長女がこの様子ならば、朝野姉妹は頼れないかもしれない。今のところ、蓮花がいなくなっても様子に変化がないのは猩花のみ。ただ、彼女も自分から動くというよりは、白希の手助けという形でしか、動けないだろう。そもそも、この中の誰も猩花に一人で行動して、彼女を探してほしいなんて思っていない。いくら彼女が聡いと言っても、一人で行動させられるほどの人生経験がないのは危険だ。人の心は頭の良さは関係ない。どちらかと言えば、経験に依るものが多いだろう。彼も異世界でそれを思い知った。元の世界では一人で行動しても何も困らなかった。一人でできないことは大抵する必要がないことだったし、しなくてはいけないことは一人でできた。その経験を持って異世界に行ったはずだが、一人では何にも太刀打ちできなかった。友人や仲間が出来て、その人たちがいることで悪い奴等と渡りあうことが出来たのだ。


「竜花、君には何か思い当たることはないかな」


 彼が声を掛けても、全く反応しなかった。本に集中しているように見えるが、その本はおそらく一ページも捲られてはいないのだろう。文字を見ているようで、何かを考えているのだろう。


「竜花? 竜花」


 彼がそうやって何度か呼ぶことで彼女は顔を上げた。その顔は彼女らしくなかった。目の下には熊があり、眠ることが出来なかったのがありありと見える。おそらく、喧嘩かなんかで、彼女が部屋を出ていって、それが自分のせいだとでも思っているのだろう。彼は簡単にそれを予想した。


「あんなじゃ、いつもはあんなじゃなかったんだよ。でも、ボクが言い過ぎたんだ。だから、もう返って来ないよ、きっと」


「僕は何も見てないから何を気にしてるか知らないけど、とりあえずは見つけることが最優先じゃないの」


 白希は彼女が求めているであろう言葉を駆ける。こういう表現は冷たい人間だという印象が出てしまうが、彼は異世界でも何度もそう言う人を見てきたのだ。そう言うときはとりあえずは、元気と言うか、動く気力を与えなくはいけない。攫われたり、奴隷になっていたりしていた人たちは、大抵無気力で明日が来ないことを願っている。これだけ辛いなら、明日になる前に死にたいとそう願うことすらやめている。それでも、死ぬにしても生きるにしても、そんな暗い場所にずっといさせるわけにもいかない。異世界ではとりあえず、元の世界にあった甘いものを与えて、明日もそれ食べさせるという約束を取り付けて、逃げてもらったのだが、ここでは甘いものをとりあえず与えればいいという話でもない。


 彼が声を掛けても、竜花はそれに返事をすることはなかった。彼女なりに考えているのかもしれないが、一人で考え続けていても考えがループするようになって、動けなくなって終わりだろう。


(何と言うか、朝野姉妹は全員、見た目通りの人生経験しか持ってないってことなのかな)


 どうにも自分の経験と比べると、考え方が子供っぽいのだ。一人でやれるとか、迷惑をかけないとか、頼れる人がいないとか、自分のせいだとか。それがどこか心に引っかかる。同世代ではあるが、彼は生きている年数が多少多く、経験と言う点では濃いものがある。それが彼女たちの認識とは大きなギャップになっていた。

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