破廉恥ですっ 3
蓮花に仲良くしたいか聞いてから、既に三日ほど。彼は有名人であるにも関わらず、その素性は全くの謎だ。好きな物もどういう性格なのかも、詳しく語る人はいなかった。蓮花と同じくらいの知名度があるというのにも驚いたが、それ以上にそれほどの人気があるにも関わらず、情報がほとんどないというのが不思議に思った。
蓮花と彼を仲良くさせるためには、まず情報収集からと考えた菜乃花は友人に頼んで、今江についての情報を集めようとした。だが、先ほど述べたとおりに情報は全く集まらない。せいぜいが、クラスや下校時間など見てれいればわかる程度のことしかわからなかった。一度だけ彼を尾行して彼の素性を探ろうとしたが、一瞬でばれた。と言うか、後をつける前に向こうから視線を向けられて、挨拶をせざるを得なくなっていた。そのため、追跡で情報を集めるのは困難だった。
少なくともなぜ彼が蓮花に良い感情を向けられないのかがわかれば、改善のしようもあるのだが、直接訊いてもいいものか、迷いは断ち切れない。だが、もはやそのストレートな手段以外には思いつかないというのも事実であった。
「今江さん。少しいいですか?」
竜花との話がひと段落する瞬間を見計らって、菜乃花が彼女に声を掛けた。彼は拒否することもなく、頷いて彼女に近づいていく。菜乃花は外を指さして、外で話したいとジェスチャーする。彼はそれを不思議に思うこともなかったのか、遅れもなしで頷いて彼女についていこうとしていた。
扉の外に出て、すぐそこで彼女は立ち止まる。彼と面と向かって視線を合わせていた。彼はその視線からも目を逸らさない。今はミストだけが彼と一緒にいる。それ以外の妖精たちは猩花と竜花と話している。
「少し聞きたいことがあったんです。ちょっと言いにくいのですが、蓮花ちゃんのことを嫌っている理由を聞いてもいいですか?」
「嫌っている? 僕はそのつもりはなかったのですが、ただ、貴女たち姉妹の中で、一番信用しにくいというだけで」
菜乃花はそれはそれで、酷い話だとと思ったが、それを口に出すようなことはしない。
「信用しにくいというのは、なぜでしょうか」
「ずっと、演技してるから。本当のことを言わない人はどうも信用できないよ。胡散臭いって感じるからね」
「……ああ、そうですか。それは、わかりやすい理由ですね。確かに蓮花ちゃんは背伸びしています。しっかり者と言うか、あの子なりに理想に近づこうとしているんす」
「それはわかるが、無理をしても意味はないよ。理想があるなら、やるべきは背伸びじゃない」
白希は蓮花に比べて、大人だった。それは異世界での人生経験の差の分だろう。同い年とはいえ、生きている時間は彼の方が圧倒的に多いだろう。人間基準で見れば、その差は歴然と言えるだろう。菜乃花たちより彼が強いのも何度も何度も戦闘を経験してきたからだ。だが、彼女は年齢通りの経験しかしていない。背伸びすればいつかは理想に届くと、それが理想に近づくための正しい努力だと思ってしまっているのだ。
「蓮花ちゃんは、そうね。まだ子供。今江さんがあの子のことを嫌いじゃないなら、もう少し歩み寄ってあげてほしいんです。あの子には内緒ですが、貴方に嫌われてることが寂しいようでした」
白希はそんなことを知ることもなかった。冷たい態度を取ったつもりはない。最初に出会った時こそ、そういう態度を取ったが、協力するとなった今、そうする理由はない。しかし、彼は妖精たち以外には受動的だ。話しかけられなければ、話さない。反対に竜花が仲良く見えるのは積極的に彼に話しかけているからだ。それに彼もちゃんと話を聞いている。彼にとってはそれが好きではない者と話すときの普通の態度だった。
「僕からは話しかけないよ。今、貴女が言ったことを考えれば、僕から積極的に話しかけるのは、意味がないというか、いきなりそんなことになれば、貴女が手回ししたってばれる。そしたら、彼女はもっと傷つくことになる。姉に言われて仲良くしてたなんて、知りたくないだろうし。だから、僕は今まで通りにする。貴方は、僕が彼女を嫌ってないってことだけ伝えればいいよ」
「ですが、貴方からも少し嫌ってないというアピールをしてほしいんです」
「いや、どれだけ頼まれても、僕から変わることはないよ。協力関係と言えど、そこまでするつもりは僕にはない。これ以上は話すつもりはないよ」
「……わかりました。無理を言ってすみませんでした」
菜乃花は納得はしていないが、彼に無理やり仲良くさせるというのも意味がないということには気が付いていた。それでも、彼女の悲しそうな声を思い出すと、どうしても少しでいいから彼にもアピールしてほしかったのだ。
結局、本当にそれ以上は話をせずに、部屋の中に戻った。




