破廉恥ですっ 2
その後は喧嘩などもなく、フレイズは猩花とお喋りをしていた。白希は竜花に懐かれているようで、彼女は話していることに相槌を打ちながら、話を聞いていた。彼女は中二病と言うだけあって、ファンタジーのライトノベルが好きらしい。特にダークヒーローが登場するものが好きなようだ。彼女の格好もそのライトノベルに登場する敵キャラクターらしい。彼女と同じように包帯を操作して、相手を拘束したり、包帯を硬化して、相手をバラバラにして倒すシーンがお気に入り。彼女がわざわざ包帯を使って超能力を使う理由はこれのようだ。要するに演出である。そんな話も彼はしっかりと聞いていた。聞き上手と言うのだろうか。竜花も猩花と同じく、自分の話をそこまでちゃんと聞いてくれていることが嬉しかった。
そうして、話している内に時間が過ぎていく。蓮花も俯くのをとうの昔にやめて、読書をしていた。その前には勉強をしているようだったが、今は息抜きと言うことだろうか。彼女が読んでいる本には革製のカバーがかかっていて、その中身を知ることは出来ない。だが、大きさからいてもハードカバーのものだろう。おそらく隣家の読んでいるようなライトノベルと言うわけではなさそうだ。
「さて、僕らも帰ろうかな」
「お兄ちゃん、明日も来る?」
彼が立ち上がると同時に猩花も立ち上がり、彼の袖を掴んでそう訊いた。彼は自分の一存でこの場所にお邪魔するかどうかを決めるわけには行かないため、菜乃花に目配せをすると、笑顔でコクリと頷いていた。おそらく、明日も来ていいということだろう。それを踏まえて、彼は猩花に来るよと返事をした。それだけで、猩花は嬉しそうにしていた。猩花の子供らしい面と言うのは、朝野姉妹はあまり見ることが出来ない。いや、彼女たちでなくとも、見ることはほとんどないだろう。彼女が気を抜いて子供らしくいられるのは、周りに誰もいない時だ。周りに誰かいると、どうしても気を張ってしまう。姉たちには自分が少しはしっかりしたというところを見せたいし、同級生に既にしっかり者と言う印象を与えているため、それを裏切りたくないと
気を張っている。だからこそ、彼女は子供のように、彼の袖を引いて、問いかけるというのは珍しいことだった。だが、それは裏を返せば、それだけ彼が信用に足る人物だということでもある。猩花は聡い。そのせいで、いくら笑顔でも下心がある者にはどうしても気が付いてしまう。大人の親切の裏には必ず何かしらの思惑があると考えている節もあり、姉たちの言葉もまれに疑っているような様子も見せる。そんな彼女は、懐いているということは怒らせるようなことをしなければ、少なくとも中立でいてくれることだろう。猩花がいれば、助けてくれるかもしれない。
(そう思うと、どうしても蓮花ちゃんはあんまり好かれてないみたいなんですよね。私も大概かもしれませんが)
菜乃花は、竜花と猩花の様子を見ながらそんなことを思った。これも勝手な予想だが、彼は竜花も助けてくれると思う。彼女も白希と仲良くしているように見える。それに彼からの印象もなぜか悪くないようだ。あれだけの濃いキャラクターだというのに、それを物ともせずに話をしている。菜乃花としては嬉しいのことだが、彼が竜花のその性格を少しも気にせずにいられる理由は多少気になる。面倒であるため、それを追求する気は全くなかった。
「それじゃ、また明日来るから」
白希に声を掛けられた菜乃花ははっとした様子で、彼に手を振った。
「はい。また明日、来てください」
彼は軽く頷いて、菜乃花の開いた扉から出ていった。
「蓮花ちゃん。もう少し今江さんと仲良くなれない? もちろん、無理にとは言わないんだけどね」
白希が去ってからしばらく経ち、彼女だけが別れの挨拶も返さなかったのが気になった。帰りだけでなく、その前には彼女が今江を責めるような言動をしていた。彼女も高校生でそう言ったことに過敏になるのはわかるが、それはあまりに潔癖すぎやしないだろうか。前から彼女は何でもしっかりきっかりしているのが好きな性格をしていたが、ここまで過敏になるような娘ではなかったのだ。
(今江さんがと接触してから、少しおかしかったんですよね。やはり、今江さんとの間に何かあるのでしょうか)
「……私は大丈夫です。彼と仲良くしなくても、姉さんと竜花と猩花が、彼と仲良くしてあげてください。わ、たしは、どうも、きらわれているようですから」
どこか悲し気な意味をその言葉に込められていた。菜乃花はもちろん、それに気がついてはいるが、その対処の方法は全く分からない。彼に嫌われているかもしれないということについて、悲しいというのは理解できなくもないが、言葉にありありとわかるほどその感情が乗るのは珍しい。猩花と同じく、彼女も我慢して、しっかり者になる性格だ。感情が言葉に乗るというのも猩花以上に我慢できる。その彼女が、いくら菜乃花の前だからと言って、そこまで感情を伝えるのは珍しい。
「……そうねぇ。蓮花ちゃんは彼と仲良くしたい?」
問われた蓮花は、戸惑いながらも上目遣いで頷いていた。




