無声の警告 3
白希は顔が赤みがかった竜花と適当な話をし始めた。話している内に恥ずかしさは消えて、いつもの中二病の調子で話始めた。蓮花は、自分のスペースに戻り、勉強を始めた。その間に、菜乃花と猩花が部屋の中に入ってきた。菜乃花は自分のスペースに荷物を置いて、カーテンを仕切り代わりにして着替えをしていた。それを感じて、蓮花が制服から着替えていないことに気が付いた。彼はおそらく自分が邪魔だったのだろうと思い、立ち上がろうとしたが、そこに猩花がランドセルを背負ったまま、彼に突撃した。
「お兄ちゃん。また来てくれた!」
猩花が嬉しそうにそう言って、彼の体に抱き着いていた。体と言うか太ももの辺りに抱き着いている。彼がそのまま歩けば、彼女も一緒に移動しそうだ。
「あ、そうだ。お兄ちゃん。これ、昨日のお礼です」
彼女がランドセルをその場に降ろし、その中から、小さなぬいぐるみが着いたキーホルダーを取り出した。手作りのようで、不格好な顔をしている。多少歪んだ楕円の中に顔が着いたものだ。見た目にはアザラシにも見えなくはない。
「それ、猩花が昨日から一生懸命作っていたんです。良ければ、貰ってあげてください」
いつの間にか着替えを終えている菜乃花が彼の近くに立っていて、優しい笑みを浮かべていた。彼の女に言われずとも、それを拒否するつもりはない。少女でなくとも、人が一生懸命に作ったものを何の理由もなしに拒否するなんて非道なことはしない。彼はお礼を言いながら、猩花からそれを受け取った。チェーン部分ではなく、本体の丸い部分の下の辺りを持って、そのぬいぐるみと目線を合わせるようにして、それを見つめる。中々猩花らしいデザインだと思った。なんとなく、そのぬいぐるみからは彼女の持っている温かみのような物を感じる。妖精たちもそれをじっと見ても、それに嫌悪感を示すような人は一人もいなかった。彼はポケットから家の鍵などをまとめているリングにそのキーホルダーを付けた。いつも身につけている物であり、堕としても音が鳴るため、失くす可能性も低いだろう。
猩花はさっそく、それを使ってくれているのが嬉しかった。自分の作ったものを使ってもらったというのもそうだが、そのぬぐるみが出来た後、彼女は彼に受け取ってもらえるかどうかと言う不安とも戦っていたのだ。彼女が一生懸命に作ったのは事実だが、彼にいらないと言われるかもしれないと思ってしまったのも事実だ。それでも、彼女は竜花のように、勇気をもって彼にそれを渡し、彼が受け取ってくれたことが嬉しかったのだ。
「今の可愛いの、貴方が作ったの?」
フレイズが、猩花の前に飛びながら移動してそう訊いた。彼女は四人の妖精の中でも好奇心が一番強い。彼女はこの小さな少女が、あれだけのものを作ったことが不思議だったのだろう。猩花は今まで、彼女たちの前で発言することのなかった人が喋たものだから、戸惑っていた。フレイズにはそれがわからず、彼女の目の前でとどまっている。
「やっぱり、人間って凄いね。魔気の操作も身体能力でも、他の種族に比べても弱いはずなのに、道具を使ってその弱さを補ってる。それ以外のことでも、特別優れてるってわけじゃないのに、丈夫な建物を作ったり、他の種族の手助けになるようなものまで作っちゃう。人間だけの特別な力だよね。他の種族の道具は人間の作ったものを真似てるだけだし、あたしは人間のそう言うところはほんとにすごいと思う」
彼女はここまで饒舌に話すのは珍しい。よく話すのはプロイアとファスだ。フレイズはよく動くだけで、あまり長い言葉を発することはなかった。だが、それは好奇心に引っかかる物がなければだ。どうやら、フレイズは猩花に興味を持ったらしい。白希は、それを悪いことだとは思わなかった。この朝野姉妹は基本的には悪い人たちではない。それがわかれば、妖精たちと仲良くしていても、あまり警戒する必要はないだろう。それにこの世界で、自分以外にも話が出来る人がいるのは彼女たちにとっても気が楽になるかもしれない。異世界でも、相談相手が彼しかいないときには、彼女たちも気を遣って、相談しなかったことが多々あった。それに白希が男性と言うこともあり、そのせいで相談できないこともあるだろう。朝野姉妹はその点でも話し相手に最適かもしれない。彼は完全に警戒を解こうとはしなかったが、そもそも、彼の戦闘能力を目の当たりにしている朝野姉妹は、彼と彼に関連するものを守ろうとはしても、奪ったり傷つけたりしようと思わないだろう。その報復があまりにも怖すぎる。強力な人は敵にするより、味方にする方が良い結果になるだろう。恐怖だけではなく、彼は猩花だけでなく、他のみんなも助けてくれたのだ。恩を仇で返すなんてことはしないだろう。




