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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
1 異世界帰りの精霊使い
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異世界帰りの精霊使い5

「プロイア。ショックウェーブ!」


 彼が掌をグレイに向けて、呪文を唱える。すると、彼の手から衝撃が発される。衝撃は目には見えない。それはグレイにも見えていないものだ。そのお陰でエイリアンは後ろへとふっとばした。態勢が上手く取れないのか、エイリアンは地面をゴロゴロ転がりながら、途中で腹を擦ったり、背中を擦ったりしていた。


「ミスト。バインドアクアウィップっ」


 転がるエイリアンの周りに水の触手が出現した。それはエイリアン目掛けて、手を伸ばしていく。グレイの太い腹に巻き付いて、その体を絡めとる。グレイはなされるがままで、抵抗すらしてこない。それが異様で、不気味だ。何か反撃を用意しているかもしれないと、彼は予想する。だが、罠があろうとなかろうと、攻撃してきた奴を野放しには出来ない。異世界に初めて行った時のように無力というわけでもないのだ。妖精たちもいる。負ける気はしなかった。


 彼が次の魔法を使おうとしていると、グレイが変な音を発した。ガジゴジと聞き取れる音のような言葉のような物だ。彼にはそれが何かわからないが、相手がそう言うと、彼が出した水の触手ではない触手がグレイの体をそこから奪った。グレイが発する音が遠ざかる。だが、完全に聞こえなくなるわけではなかった。


 グレイを奪ったのは、水色の細い触手だ。大量に生えていた。水のような物ではなく、イソギンチャクのような物である。だが、それは長いのだ。その触手の先を追うと徐々に顔が上に上がる。触手の根元には三角形があった。それは銅か頭かわからないが、緑の三角形がついているのだ。そこにはひっきりなしに動く何かがあった。そこを見ていると、何かに似ていると思った。そして、それが目であることがわかった。彼には正面からしか見えていないが、それは等間隔で全方位についているのだ。その高さは二メートルを少し超える程度だろうか、少なくとも背の低い彼は、それを見上げていため、百八十センチ以上はあるだろう。


 そのクラゲのようなエイリアンはグレイを雑に二本の触手で持っている。


「コウゲキ、コウゲキ」


 グレイが重低音でそう聞こえる音を出すと、クラゲが動き出す。頭についている目を彼に向けた。すぐにクラゲの触手が彼に向かって伸ばされる。だが、その触手は彼には届かない。彼はテレポートしてクラゲの上に移動していた。


「フレイズ。レッドドラゴンブレス」


 彼は両掌を下に向けて、魔法の名前を呟く。すると、彼の手の前に火球が出現する。次の瞬間にそこから火炎放射のような火が勢いよく噴出した。クラゲは真上から火を受けた。火のせいで彼には相手の姿が見えなくなるが、すぐに火はやむ。火の奥には頭が溶けて、薄くなっている頭があった。


「ファス。インパクトロック」


 まん丸の岩がクラゲに向けて飛ばされる。それはクラゲの頭がぶつかって、びちゃりと音がして頭が粘液をまき散らしてバラバラになる。地面にどろどろの何かが落ちた。白希は次にグレイを攻撃しようとしたのだが、彼は何かに足を掴まれた。それは既にぐちゃぐちゃになっているはずのクラゲの一部だ。水色の触手が彼の両足に絡みついている。その間にたったいま倒したはずのクラゲの頭や触手が一か所に集まっていく。それらは、元の姿を形成して、元のクラゲの形になった。


「うえ、きもちわる~」


 フレイズが口元を押さえて、思わずそう口に出した。彼も同じことを思ったが、あまり馬鹿にできるタイプではない。再生能力がある敵と言うのは厄介だ。再生の仕組みがわからない以上はどうやっても倒せないだろう。何らかの方法はあるだろうが、今はそれがわからない。異世界のスライムやゴーレムはかなりの強敵だった。核を壊すことで倒すことが出来たが、スライムの核は体の中を動き回るし、ゴーレムの核は外側が固くて、中に刃が入らない。このクラゲもどちらかと言えば、そう言う類に再生の仕方だと感じていた。異世界で戦ったそう言った蝶再生能力があるようなものはいくらバラバラにしても、集まって元の形に戻るというのは、戦うのが面倒くさいのだ。


「ニ、ニ、ニゲル」


 グレイがそう言うと、クラゲは全ての触手を地面に付けて、屈伸のするように頭の位置を下げる。一瞬だけちらと、彼を見たが特に何も起こらずに、その場から跳躍して夜の空に消えた。


「逃がしませんっ!」


 彼の隣からそう叫ぶ声が聞こえた。だが、隣からもクラゲが飛んでいくのが見えた。彼女が戦っていたのもクラゲだったようだ。


「ふぅ。まさか、この世界でもこんな戦闘をすることになるとはね」


 彼は特に隣で声を出している女性を気にすることなく、妖精たちに話しかける。彼女たちは女性には見られないような角度にいる。


「シラキさん。大丈夫ですか、怪我はないですか?」


 プロイアが彼の体に触れながら、そう訊いた。


「ああ、うん。大丈夫だよ。ありがとう、プロイア」


 彼女の超能力は病気や怪我を治すというものだ。その力のせいで、何度も捕まっていたようだが、彼に助けられてからは攫われるなんてことはなくなった。ただ、それに恩を感じているというのはあるが、それ以上に彼のことが気に入っているから一緒にいるのだ。そして、好きな人が少しでも傷つくのは嫌だが、彼は人のために怪我をしてしまう人であることは嫌と言うほど理解していた。だからこそ、彼女は自身の超能力で誰よりも先に彼を癒そうと決めたのだ。

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