クロカミサマ 5
白希はクロカミサマに逃げ延びる道を示す。彼女が対話可能であるなら、多少は交渉の余地があるかもしれないと考えたからだ。
「悪いわね。クロカミサマには対処法はないのよ。交渉や逃走なんて、無駄なのよね。それにネットロアがある限り、私はこの世界にいるわ」
クロカミサマは彼がいくら強くとも、自分に勝てるとは思っていなかった。自分はただの化け物ではない。妖怪とは違い、出来たばかりの話でそこに自身の対処法が記されてはいない。いつか、対処法を書く人がいるかもしれないが、少なくとも今は無敵のはずなのだ。
「そうかい。わかったよ。くねくねと同じようにしてあげる」
「なっ! いや、嘘よ。どうせ、嘘よ。あれを止めるなんてできるはずが――」
「ミスト、フレイズ。ドライミスト」
相手が動揺しているのもお構いなしで、彼は魔法を詠唱する。その瞬間、彼の周りが歪む。それは空間に干渉したわけではなく、急激に当た雨られたせいで、そうなったのだ。そして、それは相手には見えないまま、クロカミサマに近づいていく。そして、彼女の髪にそれが触れた瞬間、シュッと言う音と共に艶やかさを失い、ボロボロになった。そして、相手はそれに気が付いたのだが、回避が遅れる。結果的に、彼女の地面についていた髪の全てがボロボロになった。
「私の髪が。だけど、この程度で貴方が勝てるなんて、笑ってあげてもいいのよ?」
「そうだね。笑っていなよ。そのまま、死ねるならその方が良い。……フレイズ、レッドドラゴンブレスッ」
彼の正面に火の玉が出現する。そこから、火炎が放射される。彼の正面にいたクロカミサマはもろに直撃する。回避行動をとらないのはくねくねと同じだった。炎の中でも化け物シルエットは見える。火炎が無くなり、相手の姿が見えるようになる。だが、そこには大したダメージも食らってなさそうな彼女が立っていた。
「熱い、熱い。熱い。熱い。何なの、貴方。こんなの聞いていない。超能力者ってこんなに強いなんて、聞いてないわ」
彼女はそう言いながらも、未だ艶のある髪の毛を束ねて、先端を鋭くして彼に向けて伸ばす。彼女は人語を解すが、それは彼女がそう言う風に作られたからだ。生きているわけではないし、彼女の言動は全て、オカルトの話の中で組み込まれたものでしかない。ロボットに組み込まれたプログラムのような物なのだろう。彼は彼女の言葉から異世界での出来事を思い出してしまった。獣人族の子供を使った暗殺部隊。五人の獣人で構成された彼女たちは、彼と戦うときに、今クロカミサマが言ったことと同じことを言っていた。相手がこんなに強いなんて聞いていない、と。彼女たちとは交渉することが出来て、事情を訊いて彼女たちの憂いを断って、自分の助けた人たちで作った村で今も村を守ってくれているはずだ。そして、今のクロカミサマの言葉がその出来事と重なってしまう。だが、彼女とは交渉する余地はない。憂いと言うよなものも無いはずだ。だから、彼は自分に相手がプログラムで動いているだけだと思うしかなかった。だが、対話が出来てしまうことが彼に罪悪感を残してしまう。
「クロカミサマ、逃げてくれないか。もし呪いを依頼した奴がいるなら、僕がそいつを殺そう。対話が出来るのに、殺しあう必要はないはずなんだ。君は利用されているだけで、悪じゃないはず。呪いは呪いにもなる。なら、僕が君を呪いとして願うよ。僕らの平和のために力を使ってくれって」
彼はどうしても、クロカミサマをただの化け物だとは思えなかった。オカルトと言う存在だというのなら、その物語に沿った使い方をすればいい。彼女を敵として封印してしまいたくはない。
彼の言葉を聞いたのか、クロカミサマの髪は動かなくなった。彼女は白希に視線を向けた。白希も彼女の顔を見る。泣いているわけではないが、どこか苦しそうな顔をしている。
「私が生まれたときに、貴方に会えていたら、きっと幸せだったのにね。でも、呪いは順番なのよ。私に与えらえた呪いは、超能力者を全て殺すこと。これが終わらないと次の呪いも呪いも受けられないの。残念だわ……」
彼女はそれ以上何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。彼女は自らの髪で、自身の体を串刺しにした。そして、髪で地面を掘り、体をバラバラにして、地面にそれぞれ埋めた。
「あ、たま、だけ、おね、がい」
かすれた声でも、彼はそれを聞きとれた。
「わかった。次、会うときは、一緒にいられるようにするよ」
彼のその言葉が彼女の聞こえたのかわからない。だが、彼にはクロカミサマがニコリと笑ったようにも見えた。彼はその顔を四つにして、地面の中へと埋めた。地面を魔法で元の通りにすれば、もうそこにはクロカミサマがいた証拠はない。オカルトが信じられないのは存在した証拠が無いからだろう。そして、きっと地面を掘り返しても、クロカミサマは見つからないのだ。
白希とクロカミサマのやり取りをどうしようもない様子で、菜乃花、蓮花、竜花が見ていた。菜乃花は何も言わない。蓮花は近寄ろうとしているが、足が前に出ない。竜花は、最初こそ彼に近づいていたが、かける言葉も見つからずに足が止まった。




