クロカミサマ 4
猩花に迫る髪の束。鋭い先端が彼女を追いつめるようにじりじりと迫っている。小学生の脳では、逃げることのできる場所を見つけることは出来ない。菜乃花は助けに入ろうとしているが、髪の束がそうさせてくれない。菜乃花の叫び声で蓮花と竜花が気が付いたが、助けに行くことが出来ない。竜花は包帯の動きを途切れさせてしまえば、自分が髪に貫き殺されることは簡単に予想がついていた。蓮花はテレポートを使うのに、ほんの少し一秒もかからない程ではあるが、動きが止まる瞬間がある。この状況で、その状態になってしまえば、致命傷を受けてしまう。
「見てられない、か。仕方ない」
連携して攻撃することばかりに考えが向いていると、こういうときに対処できない。それは白希も異世界で帯剣したことだ。囚われた人を助けるために、貴族の護衛で会った騎士と戦ったときには、連携を崩すだけで楽に勝てた戦いが何度かあった。用兵や冒険者たちにはあまりそう言ったものが無く、戦うとなるとそう言った人の方が単純な強さで厄介だった。異世界のことを思いだしながら、彼はテレポートを使用する。彼も彼女たちと同じくらいの髪の束に狙われていたのだが、魔法や彼が戦闘慣れしているために、その程度では彼を追いつめるどころか、余裕を奪うこともできないのだ。
彼は猩花の手前にテレポートする。そして、猩花の体に触れた瞬間に、再びテレポート。移動先は髪の攻撃が届かないと思われるほど遠くだ。テレポートする寸前では彼女の体を掴んでいたわけではないので、移動先では猩花の体が宙に浮いていた。彼はその体を両手で支えて、地面に足を着けさせた。
「……」
彼女はその状況を理解していないらしい。自身の死が回避されたということも認識しにくいのは当然だろう。小学生の脳では理解するのに時間がかかる。
「商店街の外に出ていた方が良い。あの敵は、君は勝てないよ」
「……うん。お姉ちゃんたちを、守って」
猩花は何とかそれだけ口に出せたようだ。白希は軽く頷いて、テレポートを使用し、クロカミサマの近くへと戻った。
猩花は自分の体を掌でペタペタと触る。傷はない。もちろん、血が出ている個所もない。あの状況で自分が無傷であることが信じられない。今まであんなことになる前に、どうにか敵を倒してきたのだ。それか、全員で逃げた。それでも、今回は誰も逃げられないかった。それに自分自身も助けられてしまった。嫌いだったはずだ。だが、彼に障れたときに思った。彼が触れた手は温かったし、優しかった。彼はきっと、悪い人ではない。
(ちゃんと、お礼、言わないと)
彼女はそう思いながらも、商店街から出るためにとぼとぼと歩き出した。
「今江さん! 猩花は! 猩花は無事なの?」
戻ってくるなり、菜乃花が彼にそう問いただす。攻撃を綺麗に躱しながらも、そう訊けるということは思ったより余裕がありそうだ。だが、彼は焦らすことなく、彼女に伝えた。
「無事だよ。商店街の外に出るように言ったから、安全じゃない?」
「そう、良かった。あの子が無事なら、それでいい。今江さん、猩花を助けてもらって――」
「仕方ないね。君たちも逃げていいよ?」
彼女の言葉を遮り、彼は言う。その言葉の意味を彼女は理解できない。彼にその意味を問う前に、彼は動き出した。
「ネットロア。オカルトだし、殺しても死なないかな。でも、無力化くらいはできるかな。くねくねと同じようにしてやればいい」
戻ってきた彼をクロカミサマが認識して、髪の束が彼に向かっていく。その量は明らかに、朝野姉妹に向けていたものよりも多い。
「フレイズ。フレイムウォールガイザー」
彼が静かにとなると、彼の周りに炎の壁が吹きあがる。あまりの炎の髪はその壁を貫くことは出来ずに燃えた。
「はぁ、面倒な相手。炎を使うなんて。髪が燃えちゃうわ」
クロカミサマはそれでもその程度では全く彼の魔法の驚いた様子はなく、退こうという気は全く感じられない。と言うか、そもそもネットロアから生まれた化け物にはそう言った恐怖からの撤退と言うものは組み込まれていない。くねくねの時もそうだったが、対処法がネットロアの中になければ対処できない化け物となるのだ。
「そんなものかな。プロイア。インビジブルエッジ」
彼の周りに風が吹き、目には見えない刃が生成される。それがクロカミサマに向かって飛んでいき、そこから延びる全ての髪を切り落とした。菜乃花も蓮花も竜花も、いきなり猛攻が無くなり、攻撃の手が止まってしまう。攻撃が止んだのは彼のお陰だという判断もすぐには出来ず、彼を視界の中に納めたからこそ、理解できる事実だった。
「貴方、ちょっと他の超能力者と違う見たね。こんなに強いなんて聞いてないわ」
「もう僕たちに手を出さないって言うなら、君は自由だけど、どうする?」
彼も余裕で化け物にそう言った。もし、くねくねと戦っていなかったら、ここまでの余裕はなかっただろう。くねくねと違い、まだ対話することが出来るなら、交渉の余地くらいはあるかもしれない。




