クロカミサマ 3
クロカミサマを前に、朝野姉妹は連携して戦闘を行い、彼女たちが優勢だった。クロカミサマの体を覆う髪の毛も大部分が抜け落ちたのか、最初に見た時よりも痩せているように見える。攻撃のための髪の束の数も減っているようにだった。
「このまま攻撃し続けなさい」
ヴァンパイアの菜乃花が皆に師事を出す。他の姉妹たちはその言葉に頷くより先に、行動に移す。猩花の熊が未だに化け物の体を抑えているため、攻撃を当てるのは難しくはなかった。犬と猫もまだまだばてる様子もなく、攻撃を続けている。蓮花は彼女たちに向かっていく攻撃のほとんどをテレポートを使って守っていた。竜花の袖から延びる包帯の数はいくらか増えていて、それらは髪の毛を切り落としたり、髪の束からの攻撃から身を守ったりしていた。やがて、クロカミサマの髪の毛のほぼ全てが抜けたのだが、その黒い髪の毛の塊の中には何もなかった。残った髪の毛は風もないのに、揺れて宙に舞う。だが、その髪の毛たちは一か所に集まっていく。宙に舞っていた物だけではなく、彼女たちが地面に落として放置していたもの全てだ。空中に気食の悪い髪の毛の塊になった。
「さすがに怠惰すぎたのかもしれないわね。髪人形で超能力者を倒そうなんて、甘かったのかしら。ねぇ?」
黒い髪の塊から出現したのは、艶やかな黒髪を持つ女性。その髪はかなり長く、地面に到達してしまっている。そのことも彼女は気に留めていない様子で、ぶつぶつとそこにいる全員に聞こえるような声で、独り言のように話している。最後には彼女たちに視線を向けて、同意を得るかのように訊いてきた。艶やかな髪の中に釣り目で高い鼻、大きな口がついている。唇は真っ赤で、口紅をつけすぎているような赤さだ。顔のバランスは良さそうだが、それでも彼女を綺麗だと思えないのは濃い化粧をしているような顔だからだろう。服装は黒いワンピースのような物だが、その人物のスリムな体の線を浮き上がらせるようにぴっちりとしている。スカート部分だけが、タイトな物ではなく、少し外に広がっていた。顔は化粧をしたように白いのにワンピースから出ている腕は、まるで病人のような色の悪さだ。
「ふふふ、私はネットロアから生まれたクロカミサマ。渡井が本体。貴女たちが一生懸命、倒していたのは私の髪から作ったただの人形なのよ」
誰も訊いてもいないのに、クロカミサマを名乗る女性はぺらぺらと喋る。
「貴女たちを殺さないといけないのよね。自身の髪に恨みを込めて、殺したい相手をイメージしながら名前を呟いて、髪を風に流す。それが私のためのネットロア。まさか、私がこうして形になるとは思っていなかったけれど。超能力者を呪った人がいるから、私は貴女たちを殺さないといけないのよね。じゃあ、面倒くさいから、ささっさと死んでくれるかしら?」
彼女はそう言うと、自身の髪を彼女たちに向かって伸ばす。幸い、髪が塊になった時点で、それから離れていたため、いきなりの攻撃でも防ぐことができた。だが、その速度と威力は先ほどのクロカミサマの人形とは比にならない。離れていなければ、白希を覗いた全員がそれに貫かれて死んでいただろう。
「面倒だから死んでほしかったのだけれど、まぁ、そうよね。簡単に死なないから、呪い殺すのよ。それくらいはわかっているのだけれど」
余裕そうなゆったりとした声を出しながらも、彼女から飛び出てくる攻撃はすさまじい。最初に撃った時よりも髪の数は徐々に増えている。白希のみがその数にも対処していたが、朝野姉妹は徐々に防ぐことが出来なくなってきていた。特に猩花は罠指揮できている攻撃の数が他の姉妹に比べて少ない。それもそのはずで、彼女はまだ小学生だ。周りの小学生よりもしっかりしているだろうし、自身の超能力の使い方もわかっているとしても、菜乃花や蓮花のようには動けない。竜花は包帯を袖から大量に伸ばすことで無理やり攻撃を認識している。どうしても生きている年数が少ない分、できないことの方が多いのだ。
そして、この状況。朝野姉妹は全員が自分に届く攻撃の対処で精一杯になってきている。菜乃花はかろうじて、猩花を気に留めているようだが、助けに入ることが出来るような余裕はなくなってきている。ヴァンパイアで全ての能力が強化されていようとも、それを使いこなすことが出来ていなければ、全てに対処することは出来ないのだ。そして、菜乃花は猩花のことを気に留めていたせいか、鋭い髪が太ももの辺りを掠り、羽織るマントの一部が破かれた。それでも、彼女は猩花の方へ視線をやった。
「猩花ッ! 逃げてッ!」
熊と猫と犬が対処できる髪の量を超えて、猩花の背中に鋭い髪の束が様っていた。菜乃花は必死に叫び、猩花が攻撃に気が付く。だが、彼女には逃げるスペースが無いように見えた。体が硬直する。どうすればいいのか、彼女の経験不足な脳ではもう判断できなかった。




