朝野姉妹 1
ヴァンパイアと思われる女性の朝野菜乃花に連れられて、商店街を出た。すると、そこには三人の少女がいた。眼帯を付けた少女に赤茶色の髪を腰の辺りまで伸ばしている少女。その二人の三分の二ほどの身長しかない少女。
「姉さん。無事のようで何よりです」
「ボクも一緒に戦いたかったなぁ」
「お姉ちゃんっ。どこも痛いところない?」
三人とも菜乃花に駆け寄って、彼女の無事を確認した。そこで彼女についていた蝙蝠のような翼が彼女の体の中に吸い込まれるようにして消えた。そうなれば、見た目だけでは彼女がヴァンパイアだと気が付ける要素はないだろう。マントを付けただけの少し変な女性にしか見えない。やはり、ヴァンパイアへと変身する超能力でも持っていたのだろう。そう考えれば、今はきっと空も飛ぶことは出来ないし、あの超人的な筋力もないのだろう。ヴァンパイアの力が無ければ、彼女はただの女性と言うわけだ。
姉妹の三人が彼女に近づいて、彼女の無事を確認すると、彼女の近くに白希がいることに気が付いた。赤茶色の髪を持つその中で最も美少女の蓮花は、彼をじっと見ていて、眼帯を付けた少女の竜花は彼を心配そうな目で見ている。一番小さな少女猩花は彼を睨みつけている。
「あ、彼は私を助けてくれた今江白希さんです。猩花、大丈夫ですよ」
彼を睨んでいた少女の頭を撫でて、彼女を落ち着かせようとしていた。それでも、彼女は睨むのを止めない。彼は既にそれを意識することもないことだが、猩花からすれば、助けたのにも関わらず、その助けた人、つまりは竜花に攻撃したのだ。それを許すことが出来ないのだ。ちなみに、竜花は最初から特に彼に攻撃されたことを気にしていない。それどころか、あの時助けずとも彼一人であの化け物を倒せただろうと、戦ってから気が付いた。さらに、もしかすると妖精について何か言ったことがまずかったかもしれないと、帰った後に一人家で反省したのは誰にも言っていない彼女の秘密だ。
「助けてくれたことは、とても感謝しているのですが、なぜ結界の中に入ることが出来たのですか」
「結界に入ったわけじゃない。いつの間にか、別の空間に飛ばされて、そこで白い化け物と戦ってた。と言うか、そこの眼帯の目の前で消えたはずなんだけど」
竜花に全員の視線が向いた。彼女は目を瞑りコクリと頷いた。彼女は落ち着いているが、蓮花が彼女に近づいて彼女の頬を引っ張った。
「なぜ、言わなかったのです? 目の前で人が消えたのに、報告しないのは度の口ですか?」
蓮花の口角は上がっている物の、その言葉には竜花を責める意思しか感じない。
「ひはい、ひはい。いいはん、ほほにいるんはし」
「そう言う問題ではありません。この町で起きた異常は私たちが解決するべきなのです。それに異常なことでなくとも、怪しいと思ったら、報告しなさいと何度も言ってるでしょう」
「わはった、わはったはらっ」
竜花にはあまり反省の色はないが、蓮花は彼女の頬から手を離した。竜花は引っ張られた頬を撫でている。そう言う姿を見ると、中二病じゃなければ、普通の女子であることがわかった。
「うう、そんな思いっきりつねらなくてもいいじゃんか……」
「何か言いましたか?」
「そんなに強くつねらなくてもいいじゃんって言ったんだ!」
「はぁ、貴女がしっかりしていれば、そんなことしなくて済むのですよ?」
蓮花に凄まれて、彼女はそれ以上何も言えなくなっていた。竜花も彼女の言っていることが正しいことくらいは理解している。ただ、素直に話を聞くことが出来る相手ではないというだけだ。
「喧嘩しないの。とりあえず、今江さん。私たちについてきてもらえますか」
「ついてこいって、どこに行く気? 僕はもう家に帰りたいんだ。明日にしてくれ。僕も彼女たちも休みたい」
「そ、そうですね。わかりました。では、明日の放課後、ここら辺で舞っていてください。私が迎えに来ますから」
彼は特に言うことを聞く必要もないとは思ったが、彼女がヴァンパイアに変身できるということが少し機になった。人間だろうとヴァンパイアだろうと、酷いことをされるかもしれない可能性があるのに、それを放置するのは気が引ける。異世界でも、奴隷扱いされていた人間を助けて、彼が助けた出した人を作った町の中に住まわせたこともある。特に人間が嫌いと言うわけではなく、基本的に金銭に余裕がありそうな人が嫌いなだけである。金が豊富にあれば、それがその人のわかりやすい権力になる。その権力を使って、弱い人を奴隷にしたり、珍しい種族や超能力をコレクションにしたりするのだ。そして、この世界では見た目にはどの人も一定以上の富を持っているように見える。それに、異世界以上に彼女たちが珍しく、異世界にいたとき以上に警戒しなくてはいけないと思っているだけだ。しかし、彼女たちが超能力者でそれを知っているなら、秘密を共有していることになるかもしれない。それならば、少しは彼女たちのことを知っておいてもいいかもしれないと彼は思った。




