白いオカルト 3
全身をくねくねと躍らせながら、白いそれは既に目前に迫っている。オカルトで語られるそれは遠くからしか見ておらず、細かい部分はわからない。だが、遠くから見ても、畑に生えている作物よりも大きく、目立つとなれば、それは人よりも大きくて当然なのかもしれない。遠くからではわからなかった大きさが今になってわかる。彼の約二倍くらいだろうか。そして、歪んだ顔のパーツも白く、当然遠くからではそのパーツがわかるはずもない。近くにいてもくねくねと体を動かしているにも関わらず、音が発生していない。相手のサイズ感がわかるほど近くにいるのに、だ。
体を動かすのを止めることなく、近づいてきていたそれから彼は本能的に距離を取らされた。近づきすぎれば、何かが、少なくとも自分が正常に生きていられないと防衛本能が告げているのだ。理解できないそれの攻撃も食らうわけにはいかない。理性も野性もどちらともが、それに近づいてはいけないと警告していた。
「シラキ、どうするの、どうするのっ」
ファスが彼の頭の上で、頭を軽く叩きながら、そう叫んでいる。他の妖精たちも彼の衣服をがっちり握りこんで、彼から離れないようにしている。彼女たちも彼と同じように恐怖を感じているのだろう。白希が戦ってきた異世界のどれよりも恐怖心を掻き立てられる。異世界での経験が無ければ、恐怖に負けてくるっていてもおかしくないだろう。
「どうするって言われても、どうやって戦うかも、逃げる道もない。どうする、どうする」
恐怖心と戦いながら思考するも、頭はうまく回らない。彼でなくともそうなるだろう。まだ単純に力押しで魔法を連発しないだけ理性があると言えるだろう。力をむやみに使い、相手に隙を与えるよりマシな行動かもしれない。ただこのままでは、いつかあれに負けることは確信していた。何か打開策を考えなければ、この場で狂うだけだ。
「あー、本当に頭が回ってない。まずは、テレポートっ」
彼は自分の家の庭を想像して、テレポートを使用する。しかし、超能力は発動しない。
「この空間だけなら?」
彼は数メートル前に、いつの間にか一瞬で移動した。
「超能力自体は封じられてない。空間が途切れてるってことかな」
異世界から、自分の家にはテレポートできなかった。それを考えると、また別の世界に来た可能性もある。くねくねの話の中では、相手を別の空間に誘うなんてものはなかったはずだが、くねくねがその力を人に使ってこなかっただけなのか、それともそれを使って狂気に堕として、元の空間に戻していたのかもしれない。くねくねの話を語る人は狂気に堕ちた人ではなく、その人の関係者。つまりは、くねくねに何をされたのか、詳しく知る者は正常に話せない人と言うわけだ。
だが、超能力が封じられていないということは、勝機はあるだろう。フレイズの超能力を借りれば、それで対処は可能なはずだ。ただ、くねくねに触れるというのがかなり抵抗がある。と言うか、理性も野性もあれに近づくなと言っているのに、それに抗うことなどできない。触れられないとすれば、ミストの未来を手繰り寄せる力だが、その力を使うにしても未来を手繰るための情報があまりにもない。プロイアの治癒も狂気に堕ちた自分に効果があるのかはわからない。プロイアの力で治してきたのは、あくまで外傷だ。異世界には精神に干渉する超能力もあったが、それに対して、プロイアの力を使ったわけではない。そう言う物は使った者を倒せば、回復するからだ。だが、くねくねの狂気はどうなるのかがわからない。ここは異世界とは法則が違う可能性の方が高い。ファスのテレポートは問題なく使えるが、いつか体力が無くなれば、その超能力も使えなくなるだろう。
「何にしても戦って、時間を稼ぐしかないってところかな。みんな、戦えそう?」
「いつでも大丈夫っ」
「シラキの、ためなら」
「ファスだって手伝ってあげるわっ」
「わ、私も頑張ります」
妖精たちは恐怖心があるはずだが、それでも一緒に戦うことを選択した。彼女たちはいくら恐怖心があっても彼の選択を信じて疑わない。彼が戦うというならば、彼の作戦に乗るだけだ。その代わり、彼が迷っていたり、頼りにされたときは、知恵や力を貸す。それだけお互いに信頼するだけ、共に行動してきたのだ。今回も彼と一緒ならどうにかできる。彼女たちだけでなく、彼もそう思っている。
「ありがとう、みんな。それじゃ、やろう!」
彼の言葉にそれぞれ頷く。何が効くかもわからないが、それを探るためにもまずは戦わなければいけない。




