白いオカルト 2
「ボクは本当に君のことを助けたいんだ。一人では大変だ。私もこの力を持って、もし一人だったらきっと、寂しいだろうし、不安だ。自分だけが特別だと思えるのは、他の自分と同じ特別な人がいるからだ。だから、そういう不安があるのは君だけじゃない。ボクらは、敵同士じゃない」
彼女は真剣に訴えかける。だが、彼は数センチだけテレポートして、彼女の腕から自らの腕を引き抜いて、彼女をすり抜けるように移動して、商店街から抜けた。そして、珍しく大股で歩いて行こうとしたのだが、彼女はまだ諦めていない。再び、彼の腕を掴んでいた。だが、彼はテレポートを使い先ほどと同じように抜け出す。それでも、彼女は諦めようとはしなかった。
「じゃ、じゃあ、ボクのことを信じなくてもいいから。ボクがいるっておぼておいて。ぼ、ボクは、私は朝野竜花っ!」
彼はその叫びの後に足を止めた、竜花は自分の言葉に足を止めてくれたと思った。竜花は白希に近づこうと一歩踏み出す。その瞬間に、彼は彼女の方に振り返りながら、叫ぶ。
「来るなっ!」
竜花は彼の言葉に肩をびくっとさせて、立ち止まる。その瞬間に彼女の足元に何か針が生えてきていた。針と言うか、その大きさはどう考えても針ではない。彼女がそのまま前に出てきていれば、明らかに彼女の胴を下から上まで貫いていたであろう大きさの針なのだ。彼女はその針を前にして、何も理解できずに立ち止まる。
「おいっ、なんでもいいっ、適当に動けっ、死にたくないならなっ!」
彼の叫び声で、意識が現実に帰ってくるが、それが更に彼女のパニックを酷くする。
「ファスっ、彼女を遠くへやってくれ」
「仕方ないわねっ!」
竜花の足元が四角く切り取られるかのようにして持ち上がり、そこから柱が伸びていく。彼女はそれにどうすることもできずに運ばれて、商店街の、人の多い方へと戻された。
「ちょ、ちょっと待ってっ!」
彼女の声は白希には聞こえていなかっただろう。彼は既に底にはいなかったのだから。
「ここはどこなんだ」
彼はいつの間にか、《《そこ》》にいた。現在地はわからないが、全く持って確信しているのは、今までいた場所とは全く違う場所であるということだけだ。妖精たちは皆、彼に付いてきていて、四人とも怪我も何もなく、無事だ。
辺りは田舎の畑ばかりの風景だ。広大な畑に綺麗に生えている麦が風に揺れると、金色の波が起きたように見える。民家の一つもなく、その畑の持ち主の家も見えない。木々が彼の視界を遮っているわけでもない、畑が四角く区画されていて、その間に、人しか通れないほどの太さの道があるだけ。水平線まで見えるのに、麦の畑しか見えない。
「これは、凄い光景ですね」
妖精たちは辺りを見回して感動している。異世界にもここまでの光景は中々なかった。と言うか、広大な畑と言うのは魔獣が出るため、まず作ることが出来ない。水平線まで見えるというのはまずありえないことだろう。
そこまで見渡せるからこそ、全員が気が付いた。遠くに何かあった。それが何かわからないが、風に煽られて、ふわふわと言うかくねくねとしている。まるで両手両足があるかのように見えるような揺れ方をしている。そして、白希はその状況に既視感を覚えていた。こんな光景を見たことはないはずなのに、知っている。
「いや、思い出した……。あれって作り話じゃないってこと?」
オカルトの掲示板に掲示された創作。オカルトの名前は、くねくねと呼ばれているものだ。作り話だと誰もが理解していて、話者と会話して、作られた話のはずだ。だが、それは目の前にいる。
「みんな、見ちゃだめだ。あれは、人を狂気に陥れる超能力を持ってるはずだ。幸い、まだ相手に気付かれて――」
そこまで言って、彼は視界の端で白いそれを捕らえていた。明らかに先ほどより大きくなっている。いや、大きくなっているわけではない。明らかに近づいてきているのだ。オカルトの掲示板でも有名になるほど、怖いと言われている化け物がそこにいる。
「今なら超能力もあるけど、オカルトの化け物にも異世界の力が通用するのかな。だけど、何もしないよりは、って」
さらに近づいてい来る白い化け物。話では語られなかったが、それには顔があった。だが、全てのパーツが白く、歪んでいる。右の眼はやたら大きく見え、左の眼は歪んんで、目の原型をとどめていない。口の位置にあるパーツはペンが乾かないうちに擦ったような跡を残している。顔だけではなく、胴体と思われる部分の左右のバランスがおかしい。子供が描いた落書きのように胴体。その姿を理解できたのなら、当然気も狂うだろうと思える見た目。
「本当に、ヤバいって……」
言葉にならない何かが近づいてきている。それは事実だった。




