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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
40 望みの結果
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望みの結果 5

 腕を包帯に掴まれたメリーさんは動じた様子はなかったが、相手の腕に巻いていた包帯から煙が上がっていた。メリーさんは人形であるため、表情を変えることはない。しゃべるときも口は動かない。彼女はパペットではないのだから、当然だ。それでも、彼女自身にダメージがあるなら包帯をほどくとか、逃げるとかするはずだと思っていたが、相手あh逃げるどころかそこから動かなくなった。彼女が操っていた他のナイフも地面に落ちて、からりと音を立てた。


 夕来は包帯を離すこともなく、彼女は相手を見つめていた。どうして動かなくなったのかはわからないが、包帯が原因なのかもしれないし、動けないわけではなく、動かないという可能性もある。だが、後者であるなら、夕来自身が大きな隙を見せている今、動かない意味が分からない。攻撃すれば、彼女に攻撃することができる距離だ。夕来は恐る恐る相手に近づいてその様子を見ていた。ただでさえ近い距離がさらに近くなる。もはや、ミストでもすぐには防御の魔法を展開できないほどの距離で、既に相手がミストが発した水の魔気の範囲にいる。そこまで近づかれると、絶対に彼女を守れる距離ではない。


 そして、その距離にいても、相手は全く動かない。やはり、動けないというのが正しいのだろう。包帯から出る白い煙は未だに出続けていた。彼女は油断したわけではなかったため、メリーさんがゆっくりと顔を上げた時には距離をとった。


「……これで、私の負けね。あの人がどうするのか、わからないけれど。これで終りね」


 相手の言っていることの真意はわからないが、彼女は相手が何のために戦っていたのは理解できた。彼女も相手と同じもののために戦っている。そして、相手がこの状況で諦めたのは、愛しの人も死を覚悟して、死ぬために戦っているからだろう。そして、ここで終われば、愛しの人と同じタイミングで消滅できる。それはメリーさんにとっては最高の最期なのだろう。彼女もそれがわからないわけではなかった。しかし、彼女はメリーさんに声をかけるなんてことはしない。生きていくための説得もしない。


「メリーさん。さようなら」


 だから、彼女はただそれだけを言い残して、包帯をその場において去っていく。彼女の背後で、メリーさんの体が地面に落ちる音がかすかにした。それでも彼女は振り向かずに、朝野姉妹のいた部室へと戻ることにした。




「そうか。これで残るは私だけのようだ。猿たちももう限界か……」


 初老の男の言葉を白希は聞き逃さなかった。猿は残り二体。バトルアックスを持った猿と槍をもった猿だけ。どうやらバトルアックスを持った個体が一番、戦闘能力が高いようで、槍を使う猿は他の猿よりもすばしっこい印象があった。それでも、既に槍を持つ猿は満身創痍だ。すぐにでもとどめを刺せるだろう。バトルアックスを持つ猿にもダメージを与えているため、すぐにでも決着をつけることができるだろう。そして、相手の男の今の言葉。ここで決着をつけるしかない。


 槍を持つ猿が、特攻を仕掛けてくる。しかし、彼はその動きを見切って、土の壁を作りながら、相手にカウンターで風の刃の魔法を当てる。それで、槍を持った猿は消滅して、最後にバトルアックスを持った猿が、地面にそれを振り下ろして大きな音を鳴らした。その反動を利用して、空中でくるりと回転しながら、バトルアックスを振り回して、彼に襲い掛かる。この空間で使える土の壁では威力のあるバトルアックスを防御することはできないとわかっていたため、彼はそれを飛んで軽くよける。避ける動作と共に、彼は土の棘を作りだして相手に当てる。猿は重い武器のせいで、体制をすぐに整えられないため、回避するのは難しかった。そのせいで、体に徐々にダメージを入っているが、既に猿には身を引くという行為は選択肢にない。だからこそ捨て身で攻撃してきた。彼は回避のために体をうまく使ってよけているが、本来なら回避するであろう攻撃も体で受けて、そのまま攻撃してくるため、彼がカウンターを使う回数がどうしても少なくなる。それでも捨て身の相手に対して彼が負ける道理はなかった。


「これで最後……!」


 彼の放った土の棘の魔法が相手の胴を貫いた。それで猿は消滅してバトルアックスも地面に落ちる前に猿と共に消滅した。そして、彼は初老の男に視線を送る。彼は視線を地面に降ろしていた。


「ふぅ。私で最後か。これで何も残すことなく、悔いなく終わることができる。最後の敵が君のようなものでよかった。容赦なく私を消してくれそうだ」


 相手は彼に視線をうつしてそんなことをいう。白希はその言葉を聞いても、あまり感情に変化はない。こんなところで妖精たちや猩花たちを危険な目に合わせたのだ。それなりの復讐をしなければ気が済まないというのもある。人を殺すのにはあまり抵抗がない。異世界でもしてきたことだ。しかし、明らかに理性のある相手を殺すのにはいまだに慣れない。命乞いでもするならば、すぐにでも殺せる。だが、死に際に落ち着かれるとそれだけの覚悟があったということだ。そして、そうするだけの覚悟があるなら、他の道を選ぶことだってできたはずだとは思う。だが、相手にそれを言っても遅すぎることだろう。だから、死ぬために戦ったのだろうから。


「ファス、プロイア。ここは僕がやるよ」


 彼はどこからともなく、男の胴体を貫けるほどの剣を取り出した。彼は男の顔を見た。相手の表情からは深い思考は全く読めない。だが、彼は相手の心臓のあたりに剣を突き刺した。出血は全くなく、相手の体が塵に代わっていく。それと同時にあたりの景色も変わっていく。

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