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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
40 望みの結果
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望みの結果 3

 白希の放った土の魔法が猿に向かって飛んでいく。猿は攻撃に合わせて回避しているが、その物量の多さに徐々に回避できなくなっていく。足にかすり、手に当たり、徐々に動きが鈍くなってそこを狙って、残り全ての弾丸が猿に集中して、猿の体にいくつも穴が開いて、消滅した。出血などは一切なく、猿はその場に消滅したのだ。


 相手は特に驚いた様子はなく、消滅した猿のいた場所を見ていた。そして、再び白希の方を見た。特に何か言うこともなく、彼をじっと見続けた。そして、しばらく見つめた後、視線を下に降ろした。その瞬間、彼は後ろに気配を感じて振り向いた。そこには倒したはずの猿と同じ猿がいた。だが、それは彼の予想通りで、回避するのも簡単だった。彼は体を反転させすぐに後ろにとんだ。彼のいた場所にはバトルアックスが突き刺さっている。次の猿は両刃の斧を武器にしているようだった。彼が、猿を視界に収めて観察している間に、彼の真横からいきなり猿が出現した。彼はそれに反応しきることはできず、その猿の持っていたロングソードが彼に振り下ろされた。


 剣は彼の頭の上で何とか止まっていた。彼を守っていたのは、ファスだった。


「シラキ、守りは任せてくれてもいいんだから!」


 ファスが土の壁を作り、攻撃を防いでいたのだ。戦闘時には二体目、三体目の猿を警戒していたはずなのに、戦闘中にそれを忘れて、次の猿の観察に脳のリソースを割いてしまったのだ。ファスがいなければ、大けがを負っていた軌道。彼はファスにお礼を言って、その場から退避した。


 彼が移動した場所から猿を見ようとしたのだが、彼の視界には斧を持った猿しか見えなかった。あたりを警戒するが出てくる気配もないと思ったが、先ほども真横から気配もなく出現したのだから、そういう警戒の仕方をしてもダメだと理解すると同時に、再び彼の真横からロングソードが突き出してきた。今度は彼は土の魔法で壁を作り、剣がその壁を貫くように仕掛ける。剣は彼の考え通りに壁を貫き、その件を壁で拘束した。そして、剣を持つ猿を狙って、魔法を放とうとしたのだが、それを両刃の斧が邪魔をする。


「猿たちの本気をあまり舐めない方がいい。猿は人には似てるが、理性はない。あくまで野性で生きているのだから」


 白希はあたりを見回せば、そこら中に猿がいた。持っている武器は違えど、そのすべてが彼を殺そうとしているものだというのはわかる。そして、全ての猿の視線が自分に向いていることに恐怖を覚えた。魔獣に囲まれた時でさえ、ここまでの恐怖を感じたことはなかったのだ。今から本当に殺される。そういう自覚が生まれて、それを自覚してさらに恐怖心が大きくなる。手が震えて、足が震える。そんな状態になるのはいつぶりだろうか。異世界ではいつの間にか体が震えることはなかったはずなのに、今はその恐怖を感じているのだ。


「ごめん、ファス、プロイア。ここで終わりかも。正直、知ってる動物と魔獣が一緒だと思ってたみたいだ」


 二人は彼が震えているのに気が付いていた。二人が白希と一緒にいるようになったのは、彼が異世界の魔獣に慣れてからだった。彼が魔獣のようなものを相手に恐怖している様子を目の前にしても信じられない。彼の演技であるという方がよっぽど信憑性があるだろう。だが、彼が自らの口でそう語るということは、彼の心にある恐怖心は本物だと信じられてしまう。


 だから、ファスは彼の頭の上で、彼の頭を撫でた。プロイアはいつもはミストがいる方に座り、彼の頬に手を当てた。


「シラキ、大丈夫だよ。怖がっても嫌いになったりしない。ファスたちがついてるから」


「そうです。シラキさんが戦えないなら、私たちが戦いますから。安心してください。絶対に守ります」


 白希でなくとも好きな人にそういわれて、奮い立たない奴は男ではないだろう。ここは頑張り土器ってことか、と思い直して震えながらも、彼の心に戦意が再び灯る。恐怖はあれド、みんなのために生き残るためならば、この程度のことは何でもなかった。恐怖に飲まれてそれを思出せなかったようだ。普段ならそんなことはないはずだが、おそらくこの空間自体が相手の支配の中にあるものなのだろう。だが、それがわかったとしても、今の彼には負ける気など一切なかった。


「ここからは、僕も本気だよ」


 二人にしか聞こえない程度の小さな声で、そういった。彼の言葉に二人は笑う。


 彼はいくつもの魔法名を詠唱する。土と風の魔法しか自在には使えないが、彼のはそれでも制限にはならなかった。彼に襲い掛かる猿たちは次々と魔法によってなぎ倒される。体力の尽きた猿は塵になり、消滅していた。

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