それぞれの決闘 2
白い波動は収まり、琥珀の姿が見えた。琥珀はその場に波動を耐えているときと同じように立っている。彼は既に死んでいるのか、死んでいないのか。それすらも近くに寄らなければ、分からないだろう。しかし、次の瞬間、彼はくるりと反転して、菜乃花を見ていた。何をするのかと思ったが、琥珀は持っている刀で自らの心臓を貫いて、首を斬り飛ばし、落ちた頭を真っ二つに斬った。そして、また白い光の中にその遺体が包まれて、それが無くなるときには彼は光の人型から少し離れたところで、死んだ彼の体が蘇る。
菜乃花は、その奇妙な行動のせいで、彼女は琥珀に近づけなくなる。何かおかしなことが起こったのは確かだが、それがどういう物かはわからない。生き返った琥珀は菜乃花に近づいていたが、その分菜乃花が離れた。それを見て、琥珀はその理由をなんとなく察した。
「あの白い波動は、心を操る能力を持っていた。わしはそれをぎりぎりのところで、自害して何とか脱したんだ」
そう言われると、更に菜乃花は今の彼を信用することは出来なくなる。未知の攻撃に操られて自害したという言葉自体が、敵に意識を奪われて言わされている可能性もある。彼女はうかつに琥珀に近づくことが出来なくなった。味方として彼を連れてきたというのに、彼を信用できなくなれば、彼を味方と認識するのは難しい。琥珀もそれを理解しているため、彼女に近づくことはない。説得するための言葉すら敵に言わされている可能性を考えてしまうのだから、今の彼の言葉に説得力は皆無だった。琥珀は彼女に信じられずとも、彼女の敵を打つために光の人型と相対する。刀を相手に向けて、彼は再び戦闘態勢を取った。光の人型はそれを認識しているのかしていないのか、再び自らの手をいくつも出現させて、二人を狙った。
その攻撃は先ほどよりも苛烈になり攻撃の回避も防御も難しくなる。彼女が使う血液もその量は変わっていないため、敵の攻撃を防ぐのにも限界が来る。彼女もそれを理解しているが、その状況から脱することは出来ない。琥珀は彼女以上に防御の手段がなく、回避も既に限界だった。
光の人型はその状態のまま、更に先ほどの光の波動を使う準備をしているのが、二人の視界に映っていた。あの攻撃を受ければ、菜乃花も操られることになるだろう。戦いながら移動して、既に先ほどと同じような位置にいるのだ。いや、おそらく先ほどよりも敵に近い位置に誘導されていた。琥珀も似たようなものだった。
琥珀は敵の攻撃を受けながら白く光る人球を出現させて、それを敵に向けて放つ。菜乃花と共に戦ってきた中でも一番の魂の力を込めた一撃だ。敵の波動を邪魔する程度の役には立つ。彼の思惑通り、魂は敵の近くで爆発した。その威力はすさまじく、光の人型を巻き込むだけでなく、辺りの木々も巻き込んで、木々が枯れていく。燃えているわけではないが、魂のエネルギーを受けて、普通の植物が耐えられるはずがないのだ。魂の爆発が終わり、光の人型の姿が見える。敵の前には既には波動の素はなくなっており、攻撃を防ぐことは出来たのだが、彼の体は既に三つの白い手に捕まれていた。単純な筋力で掴んでいるわけではないようで、彼が身じろぎをしても、手の中に空間を作ることもできない。彼の体を手が握り締める。手は彼を押し潰そうとしている。菜乃花は回避で手一杯だったはずなのに、血の一部を刃にして、彼を拘束している腕を切り落とそうとしたのだが、血は空を切る。血の刃を回避するために、彼から手を離した。地面に落ちた琥珀は体を痙攣させて、息を吐きだす。既に彼の体に溜まったダメージは限界を迎えていた。しかし、再び彼の体を光が包むと、体は元気な状態に戻った。
「まだまだ、何度だって蘇る。だが、この短時間で、かなり消耗したな」」
いくら昔からその魂を溜めているとは言え、この短時間で、二百五十年ほどの間に溜めた魂を使いきってしまった。量としてはまだまだあるが、更に長く戦えば、残りも消耗していってしまうだろう。菜乃花の血液も、このまま消耗され続けると、彼女の渇きも高くなる。おそらく、その前に彼女の超能力が使えなくなる方が先で、彼女が戦えないとなると琥珀一人でこの光の人型を相手にすることは出来ないだろう。もし、そうなれば、彼は戦闘不能になった菜乃花を連れて、逃げることは優先するつもりだった。
彼の覚悟は彼女は知ることは出来ないが、彼が自分を生かす方向に行動することは想像できた。この状況を打開するためには、自身の力の全てを駆けて戦うしかないと考えて、彼女は防御を捨てることにした。回避に神経を使い、回避できない攻撃は受けるしかなかったが、その分、彼女は自身の血液を分散させて、小さな棘をいくつも作り出していた。槍は一部を攻撃することしかできなかったが、全身を余すことなく攻撃すれば、敵の心臓のような部分も攻撃することが出来ると考えたのだ。
彼女が防御を捨てて攻撃しようとしている姿が琥珀の目に入る。彼女の体がボロボロになっていくのがわかり、彼女を守るために彼は菜乃花を狙う手を攻撃する。魂を出し惜しみすることなく、刀を白く輝かせて振るう。菜乃花の作り出した血の針が光の人型の体を余すところなく貫いた。光は攻撃を回避できずに、無数の針に体を貫かれた。光は霧散して、その場から消える。菜乃花の体からマントが消えて、全ての血が彼女の体に戻った。息を切らせて、彼女は地面に片膝を付いた
彼女は決死の攻撃で光の人型を消し飛ばしたのだった。