終わるために始まる混沌 3
八尺様と目を合わせてしまった猩花は、すぐに戦闘態勢に入る。熊のぬいぐるみの小太郎を巨大化させようとしたのだが、八尺様が彼女に近づいていた。その速度は以上は異常な速度で、距離を詰めた。彼女が小太郎を意識的に巨大化させようとするよりも速く、彼女の目の前に出現した。その勢いを持って、相手はジャンプして蹴りを出した。猩花は背の低さを利用して、しゃがみその攻撃を回避する。その場で小太郎を巨大化させて、小太郎の拳を八尺様にお見舞いした。小太郎の手は思い切り、敵の体を捕らえていた。しかし、相手は、後ろに下がることも、怯むこともなく、小太郎の腕を掴み、持ち上げた。それを思い切り振り回して、遠くへと投げ飛ばす。巨大化した小太郎は道路に体を打ち付けて、三回転して止まる。彼は立ち上がり、彼女の下へと移動するが、投げ飛ばされた分、すぐには彼女には届かない。
相手は拳を持ち上げて、彼女に振り下ろそうとしたが、猩花は超能力が無くとも戦う手段はあった。
「火よ。れっどどらごんぶれす!」
彼女の前に火球が出現して、そこから火炎放射が放たれる。ほぼゼロ距離の魔法相手は回避できるはずもなかった。火炎を嫌がったのか、視界を奪われるのが嫌だったのか、相手は猩花と距離を取るためにバックステップを踏む。れっどどらごんぶれすはすぐに消えない。相手はバックステップで 移動した位置からすぐには攻撃に移れず、攻撃範囲外に移動するしかなかった。
猩花を探しに来た蓮花は商店街にテレポートしていた。いつの間にか、白希の姿を見失い、彼女一人でそこに来るしかなかったのだ。白希は一人でも何とかできる能力があるのはわかり切っている。おそらく、彼も猩花を探せと言うはずだ。彼女はそう考えて、商店街の大通りを見渡したが、猩花の姿はない。それどこか、商店街には人が一人もいない。人が一人もいないということは神隠しのようなオカルトが関係していると考えるべきだろう。猩花もそれに巻き込まれた可能性がある。この前の神隠しと同じものだとは思えないが、人を行方不明にさせるオカルトなんて沢山ある。
彼女が考え込んでいると、商店街から別れる路地から一人の長身の人がゆったりと現れた。クリーム色のロングコートを付けて、頭には黒い唾が一周した帽子をかぶ血っている。黒いマスクをして口を覆っている。つばがそれの目を隠していて、感情を読み取ることは出来ない。しかし、蓮花はそれが何らかのオカルトであることは理解できていた。オカルトと戦ってきた過去の体験がそう言っているのだ。そして、コートの人が彼女に近づいてくる。彼女は警戒しながらゆっくりと後退りしていた。相手の近づく速度より、多少遅いくらいで後ろに下がり、相手の行動を警戒する。その途中で、相手は歩みを止めた。蓮花もそれを見て足を止める。コートの人は顔を上げる。つばで隠れていた顔が見えたが、目は虚ろでどこを見ているのかわからない。二人の間に静寂が訪れ、一拍おいてコートの人が口を開いた。
「私、きれい?」
その言葉で彼女は相手が何なのか理解する。どう広がったのか不明と言われる、有名なオカルト。インターネットが普及する前から語られてきた、もはや伝承ともいえる化け物。
(口裂けおんなですか……。確かポマードと言えば撃退できると言いますが、これが今でも通用するかはわかりませんね。しかし、まずは……)
「ええ、綺麗ですよ」
「へぇ、これでも?」
コートの人は黒い大きなマスクを外した。マスクの下にあったのは、耳まで届きそうなほど避けた口だった。赤黒く頬が酒て、それが口と繋がっている。中々奇妙な見た目ではあるが、くねくねなどオカルトの中にはもっと不気味なものもいる。蓮花の中では口が裂けているだけで怖いとは思えなかった。
「十分、綺麗ですよ。ユニークな口ではないですか」
「……嘘を吐くなッ!」
口裂け女はポケットの中から何を取り出して、蓮花に振るう。それは肘から先の長さと同じくらいの刃渡りを持つナイフだった。彼女は咄嗟に後ろに飛んでナイフを回避した。しかし、彼女の肩の辺りに痛みを感じた。その痛みに反応して視線がそちらに動いた。制服が斬られていて、切れ目から赤黒い液体が出ていた。幸い、深い傷ではなく、既に血は止まっているようだが、肩を動かせば、痛みがある程度。しかし、ナイフは確実に回避していたのだ。それは間違いない。だが、それでも自身の体に傷がついているのも事実。オカルト相手に、物理的な理論で考えても太刀打ちできるはずもなく、蓮花はとにかく、ナイフが振るわれた方向に以下何用にしなくてはいけないと頭に入れた。