朝野姉妹と夕来 4
夕来が小太郎を直すことが出来るかもしれないと言うと、猩花は目を大きく見開いた。彼女の相棒で一番彼女を守ってきた存在だ。この前の宇宙人との多戦いでボロボロになってしまったのだ。小太郎に超能力を使うことはまだできるが、今の彼に戦闘することが出来ないだろう。
「本当に、なおせるんですか?」
「はい、直せると思います。お裁縫は得意なので」
「……じゃあ、おねがいします」
彼女はベットに寝かせていた小太郎をそっと持ち上げて、彼女に手渡す。夕来はそれを両手で大切に受け取り、小太郎の状態を見た。幸いにも、既に布がちぎれていて他の布が必要と言う状態ではなかった。必要なのは針と糸と綿。綿を入れなければ、このまま元気のない様子のままになってしまうだろう。
「すぐには、なおりませんよね……」
夕来が小太郎の状態を見ていると、その様子を見ていた猩花が寂しそうにそう言った。俯いて、小太郎の身を案じているのがわかる。
「……そうですね。裁縫道具は実はここにありますから、綿があれば、すぐにでも直せます。肝心の綿は持っていないので、それを持ってくるまでは待っててもらうことになりますけど」
猩花はすぐに直せないとわかると、その肩を落としてしまった。夕来も小太郎をすぐにでも直したいと思っているのだが、どうしても材料が足りないのだ。
「ふっふっふ、綿ならボクが持ってるよ! さぁ、受け取ってくれ」
二人の様子をちらちらと見ていたい竜花が、机の横についている引き出しから、新品の綿が入った袋を取り出した。猩花はすぐにお礼を言って、それを受け取り、夕来に渡した。
「これでなおる?」
「はい。すぐに、直して見せますよ」
彼女はスクールバッグから、ポケットに入れるようなサイズの裁縫道具の入ったポーチを取り出した。そして、裁縫道具を取り出して、綿の袋を開ける。そこからは、一瞬と言ってもいいだろう。彼女の手は休まず、素早く動き、一瞬で小太郎の傷口を塞いだ。綿も詰めて、小太郎の体が元と同じくらいに膨らんでいる。元の糸は解かれて、彼女が縫合した跡は目立たなくなっていた。近くで見なければ、元の小太郎と同じに見えるだろう。
「はい、出来ました。どうぞ」
彼女は丁寧に小太郎を丁寧に両手で持って、猩花に渡した。猩花は、小太郎をじっと見て、それを両手で高く掲げる。どこからどう見ても小太郎だ。
「こたろう、なおったんだね。よかったぁ」
彼女は小太郎をぎゅっと抱きしめていた。彼女はうれし泣きしていて、夕来もそこまで喜んでもらえてよかったと心の底から思った。
「あの、ありがとう! 夕来お姉ちゃん!」
彼女は小太郎を抱きながら、彼女にも抱き着く。小太郎がその間に挟まっていた。夕来はそこまで抱きしめられたこともなく、驚いてしまった。
「は、はい。直って、よかったです」
どこか、他人事のような言葉だったが、彼女も喜んでいるのは間違いなかった。
その様子を他の姉妹は見ていた。竜花は今の素早い裁縫に興味を持っていたし、蓮花は彼女ならこれくらいはできると言いたいような自慢げな顔をしていた。菜乃花は白希に似た雰囲気を感じ取っていた。白希は彼女の優しさを見て、ミストが一緒にいたいというのも納得だなと思っていた。
そんなことをしている間に、学校が始まる時間が迫っていることに気が付いて、皆それぞれ教室に移動することにした。
夕来は白希と共に登校する。彼がどれだけ注目されているのかは、夕来は知っている。そして、彼の隣を歩くということは、その視線が自分にも向かってくるということである。視線を感じるとどうしても猫背になってしまう。
彼女は、確かに身体能力も高く、持っている技術も多いが、それが彼女の自信になっているわけではない。どうしても、彼の隣に立つほどの見た目が自分にあるとは思えない。彼の隣を歩いて、視線に晒されるとどうしても緊張してしまうのだ。
「夕来、さっきは凄かったね。裁縫、うまいんだね」
「え、あ、はい。練習してきましたら、あれくらいならいつでもできますよ」
夕来は緊張しながらも、彼が褒めてくれたことで笑顔を見せた。白希からは彼女の可愛らしい笑顔が、前髪の奥にある目も含めて見えていた。もし、異世界で様々な人に会って、人生の経験が少なければ、彼女の笑顔に惚れていてもおかしくはないと考えていた。それに引きずられるように、そんな可愛い笑みの女子が自分のことを好きかもしれないという考えが浮かんでくる。顔にはそれが全く出ていないが、頭の中ではその考えを消そうとしていた。
それから、白希と夕来は更に人の視線を集めながら教室へと向かった。