二学期前日 5
彼は剣を握り、テレポートする。相手の位置が視認出来ている以上、それの相手をするのは難しい話ではなかった。
一体目の化け物の背中側に接近して、背中に剣を振り襲る。空間を無視して攻撃を届ける剣は確実にそれの背中を斬り裂いた。相手は痛みなど感じていないかのように振り返り、彼に反撃をしようとしていた。周りにいる敵も彼に攻撃をしようとしていたのだが、既に彼はそこにはいない。テレポートで次の相手の頭の上に移動していた。その場から彼は相手の頭の頂点から剣を突き刺した。その状態でテレポートして、その敵の背中を斬り裂く。振るった剣を引いて、その場で相手の胴隊に剣を刺差す。突き刺した剣を抜くために相手の背中を思い切り蹴っ飛ばして、剣を抜く。その瞬間に相手からの攻撃らしきものが来たため、テレポートで逃げる。最初に差した敵の正面に移動して、それの頭と思わしき部分を切り落とす。動かなくなったのを確認する間もなく、三体目の方へと移動して、斬撃を何度も繰り出す。テレポートを駆使して、相手の全ての方向から斬撃を与え続ける。斬っても斬っても、血のような液体や臓器のようなものも出てこない。まるで人形を斬っているような感触だ。彼が斬った三体はもう動かない。
彼は相手の仲間がまだ潜んでいないかを確認するために家の中を隅々まで見たが、どうやら三体だけだったようだ。リビングに戻り、斬ったそれをどうしようかと思う間もなく、死骸がいつの間にか消滅していた。リビングに確かにあったそれがいつの間にかなくなっていたのだ。何かに回収された様子もない。そもそも家の中を確認すると言っても、そこまで時間はかからないはずだ。ものの何分かの間に死骸の処理をしたとういうことだろうか。いや、それともあれだけの攻撃を受けてもなお、実は生きていて逃げたのかもしれない。何にしろ、死骸の処理について考えずに済んだのだ。
「ファス。プロイア。ありがとう」
「シラキさんのために助けになったのなら、嬉しいです」
「いつだって、どこだって、何度だって、ファスの力を貸してあげてもいいわっ」
二人は対照的な態度ではあるが、二人とも彼のことが好きで役に立ちたいという想いは同じだった。その想いは嬉しいのだが、あまり妖精たちには無理をしてほしく ないのは当然だ。自らの存在するための力を借りてまで、この家を取りもしたいとは思っていない。彼は最悪、彼女たちが生きていれば、この場所でなくともいいと思っているのだから。
「その気持ちは嬉しいけど、無茶はしないでほしい。僕はみんながいれば、それでいいんだ。みんながいないなら、この家を取り戻しても意味がない。それはわかってくれるか」
彼が諭すようにそう言うと、ファスもプロイアも俯いてしまった。二人もそれは理解しているのだ。だから、彼は強くは言わない。
明日からは二学期が始まるというのに、この騒動。
「ほんと、やめてほしい……」
彼は疲れた顔で空を見上げる。既に夕日も傾き始め、空の半分以上は紺色に染まっている。もはや、休む暇もない。これは溜息の一つも出るだろう。
「窓も、どうにかしないとなぁ。家の中も、かな」
面倒だという思いはあるが、それを後回しにすると自分は全くやらなくなるというのを理解していいるため、ゆっくりとそれをやり始めた。窓を直すために魔法を使う。ガラスを生成するために土の魔気を使い、割れたガラスをくっつける。魔法ではなく、魔気であるため、物の根本から元に戻すことが出来るのだ。ひしゃげた窓枠も何とか、フレイズに火力調整した火であぶって元の形に戻した。多少不格好ではあるが、窓は元に戻った。いや、元にというか、窓を開けようとしてもスムーズには開かないので、元に、ではないかもしれない。それから、家の中の整理と掃除をした。それが終わったころには既に夜だ。食事は買いためていたものを適当に温めて、みんなで食べた。
「明日から学校だから、早く寝ようか」
彼の指示に妖精たちは反対せず、その日は寝ることにしたのだった。
翌朝、窓から入る日差しで目が覚めた。時間はまだ五時半。もう一度寝たいところだが、一度目が覚めるとすぐに寝ることが出来ない彼は起きることにした。彼が体を起こすと、妖精たちも彼の周りに酔ってくる。妖精たちは眠っていたとよりは、彼の近くで寝転がって、体や魔気を取り込む器官を休めていただけだ。彼が移動する前に、彼の近くに移動するのは彼女たちにとっては当たり前のことだ。彼はベットから降りて、身支度を整える。机の上に置いたはずの鞄が無くなっていると思ったが、すぐに超能力の空間にしまったのを思い出した。それを取り出して、朝食を取ることにした。
朝はそこまで多くの物を食べることが出来ない彼は、妖精たちの分を少し貰うことにした。そして、ようやく六時半。学校は既に開いていると踏んで、彼は妖精たちと家を出た。