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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
37 朝野姉妹と夕来
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朝野姉妹と夕来 1

 夕来が白希の家に泊まりに来た翌日。白希が着替えを終えて、自室から出ると、何かを焼いているいい匂いがした。彼は妖精たちが何かしているのかと思い、急いでリビングに移動する。すると、そこには妖精たちがテーブルに座っているのが見えた。ミストだけがそこにいないようだった。妖精たちは白希が入ってくるのを見ると、宙に浮いて彼の周りに移動する。挨拶をしながら、フレイズがミストがどこに居るのか、ユキがキッチンで何かしていることを教えてくれた。


 彼は夕来が料理でもしているのかと思って、キッチンに顔を出した。すると、そこんは既に朝食用であろう料理が皿に綺麗に並んでいた。既にほとんど料理が終わっているようで、フライパンなどの調理器具を片付けているところだった。


「あ、おはようございます」


 夕来が白希に気が付いて、挨拶をしていた。白希はそれに挨拶を返した。しかし、それよりも料理が並んでいることに驚いていた。朝はそこまで食べる方ではないのだが、その料理はかなりおいしそうで、食欲が沸いてくる。


「これを、畑さんが作ってくれたの?」


「え、あ、はい。余計なお世話だとは思ったんですけど、いつもコンビニの弁当だと飽きるかなと思いまして、こんなものを作らせてもらいました」


 彼女は他人行儀な感じがする言い回しで、白希の機嫌を伺うように恐る恐る彼を見ているようだった。


「料理できるなんてすごいね。あー、それと、普通に友達に話すみたいに話してほしいかな。暮らせてもらった、なんて言わなくていいよ。僕は凄く嬉しいから」


 白希が微笑みながら、彼女にそう言った。好きな人にそんな表情でそんなことを言われてしまったものだから、夕来は照れてしまい、顔をむつ向けてしまった。しかし、そうしながらも小さく頷いて、彼の言葉に返事した。


「この料理は、そっちに持ってってもいいのかな」


 白希は作らせて、運ぶのも任せるということはせずに、その料理が完成しているのならと思い、彼女に問うた。


「あ、はい。そうです」


「じゃあ、僕が持っていくよ。畑さんはリビングで待ってて」


「あ、はい」


 彼女は少し戸惑っているようだが、彼の言う通りにしてエプロンを外しながら、リビングに歩いていく。リビングのテーブルの周りに座ろうとして、彼の先ほどの言葉にはっとなる。彼女は料理を運んでいる彼に声を掛けた。


「その、今江君も私のこと名前で呼んでほしい、です。駄目なら、無理にとは言いませんけど……」


「え、あ、そうだね。じゃあ、僕のことも白希って呼んでほしいかな」


 彼は夕来にとっては中々ハードルの高いことを要求していた。彼も言ってから、そのことに気が付いた。異世界では当然のように名前で呼んでいたが、この世界ではそう言うわけではない。名前で呼ぶのは、この世界だと少しだけ特別な意味を含んでいると考える人の方が多いだろう。彼女の話し方や所作からしても、人の名前をポンポンと呼べるような人柄ではないのは明白。


「わ、分かりました。頑張り、ます」


 一応、彼女は名前で呼ぶ努力はしてくれるようだが、すぐには名前で呼べないだろう。ここで、やっぱり名前じゃなくていいよ、と言うのは難しい。彼女のことを考えれば、名前呼びを取り消すのは彼女を傷つけるかもしれない。傷つけるまではいかなくとも、落胆させてしまうかもしれない。考えすぎかもしれないが、彼女は頑張ると言ってくれたのだから、わざわざ水を差す必要はないだろう。それよりも、彼女のことを名前呼びするのは、多少気恥ずかしさのようなものはあるが、彼女の心が耐えられるかどうかと言うところだろうか。しかし、それは自分が考えても仕方ないと思い、考えるのを止めた。


 料理とは言っても、飲食店で出てくるようなコッタ料理ではなく、卵焼きにウィンナー、少量のポテトサラダに焼いたパン。パンには既にバターが塗られているようで、その香りが食欲をそそる。白希と夕来の物だけではなく、妖精たちの物も同じものが用意されていた。しかし、その大きさは彼女たちに合わせてあるものだった。料理を全て、テーブルに並べた。


「それじゃ、みんな。食べようか」


 口々にいただきますと挨拶をして食べ始めた。


「朝食作ってくれてありがとね。さっきは言い忘れていたけど、手料理なんてずっと食べてなかったから、嬉しいよ」


 夕来の隣には白希がいた。彼にいきなりそんなことを言われた彼女は、動揺して食べていたパンが喉に詰まりそうになった。パンを飲み込んで、二、三度、咳をして水を飲んだ。


「大丈夫? 僕の生だよね、ごめん」


 彼女は首を何度も左右に振って、彼の生でないことをアピールしていた。


 確かに咳き込んでいるが、彼に感謝される時が来るとは思っていなかったので、彼女は、白希の感じている嬉しさよりも遥か上の喜びを感じていた。

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