夕来の夢 4
夕来は好きな人の白希の家まで来て、その家のリビングのソファに座っていた。目の前にテーブルにはミスト以外の妖精三人がいて、彼女をじっと見つめていた。そこに飲みものを持ってきた白希が来た。彼はテーブルに適当に飲み物が入ったコップを並べた。小さなコップが四つと、縦長のコップだ。小さなコップを妖精たちの前において、残りの縦長のコップを夕来の前に置いた。
「ただの麦茶だけど、どうぞ」
彼女はコップに小さく口をつけて、口の中を潤す程度口の中に含んで飲んだ。彼女はそれだけで、次の言葉は出てこない。何か話さないといけないとは思っているのだが、その心とは反対に彼女の口から言葉が出てくることはなかった。
彼女は困っている間に、白希はテーブルを挟んで反対側に移動する。それから、少しの間、夕来のことを見つめているようだった。彼女の肩にはミストが座っていて、彼女に気を許しているのがわかる。しかし、白希からすれば、彼女がミストの思っている通りの、信頼できる人なのかはわからない。面談と言うわけではないが、ミストと共にいるというのなら、少なからず一緒に行動を共にするだろうと思えば、自分との相性も知っておいた方が良いとも思ったのだ。
白希の視線を感じながら、彼女は手に持っていた袋の存在を思い出した。
「あっ、これ、どうぞ。み、みんなで食べてください」
彼女はソファから立ち上がり、彼に袋を渡した。彼はその袋を受け取り、破顔してお礼を言った。夕来はその顔を見ることが出来ただけで、嬉しくなった。彼の為に手土産を選んできてよかったと思った。白希のその笑顔が心からのものでないことは理解していながら、好きな人の笑みと言うのは破壊力があると痛感した。そして、白希も彼女が緊張しながらも嬉しそうにしているのを見て、彼女がミストを騙しているという可能性は低いだろうと思った。
(まぁ、そもそもミストのことを騙すなんて無理だとは思うけど)
彼はそう思いながらも、妖精たちのことが心配だった。彼は受け取った袋をテーブルの上に乗せて、夕来の近くに移動する。近くとはいっても、顔や体がくっつくというほどではない。だが、それでも夕来の体が更に緊張していた。
「その、ミストは畑さんと一緒にいたいって言ってるんだけど、畑さんはそれでいいのかな。多分、それを受け入れてるから、ここまで来てくれたんだろうけど」
「えと、はい。当然です。ミストには助けられましたから。それにそれが無くとも、彼女は望むことは悪いことじゃなければ、何だってしますよ」
「……なんでも、か。死線を潜り抜けたというのはわかるが、そこまでミストに肩入れできる理由は何?」
白希は、どうしても気になることはそれだった。彼女はおそらく、善人と言える法の人種だろう。しかし、そうであっても、人であれば、そこまで深い絆がない場合は、ここまではしない。それこそ、彼女に自分では測り知れない裏があると勘ぐってしまう。
「……なんで、ですか。それは、何と言うか、あの平原でミストを守らないと、って思ったんです。それから、一緒に戦って戻ってきた。そして、つい先ほども助けてくれました。助けられてばっかりですけど、私はミストを信頼してる友達だと思っているから、です。だから、ミストのお願いは叶えたいと思ってます」
それは本音の一部だということはわかるが、彼女は何かを隠している。彼はそう思った。なんとなく、もしかしたら自分のことが苦手なのかもしれないとも思う。先ほどから、声が上ずっているし、笑おうとして顔が多少引きつっているときもある。自分と相性が悪そうだという理由で、ミストと彼女を離すつもりはないが、一緒にいなくてはいけない場合はあるかもしれない。
「それに、実は僕らは戦ってるんだ。畑さんを危険な目に遭わせるかもしれない。それでも、一緒にいられるかな」
その言葉に、ミストと夕来は視線を合わせた。そして、無理をしていないであろう笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ。先ほど助けられたと言ったのは、まさしく戦っていた時ですから。メリーさんというオカルトと戦っていて、危うく死ぬところでしたが、ミストが来てくれました」
「……? 畑さんも超能力者ってこと?」
それは当然の疑問だろう。白希だけでなく、超能力者は例外なく、一般人がオカルトと渡りあうとは考えられないのだ。そもそも、一般人はオカルトと戦う機会なんて、オカルト好きでも可能性はものすごく少ないだろう。一般人からオカルトが信じられていない理由はそれが一番だ。存在に確証がないものを心のそこから信じている人はごくわずかだ。超能力者はその存在を認識してしまっているのだから、確証があるというわけだ。
「私は超能力者ではありませんが、オカルトや超能力者と戦えるだけの訓練をしてきましたから、戦えますよ。あ、でも、今はミストのお陰で、水の魔法が使えます」
彼女は超能力者でもないはずなのに、淡々とそう答える。やはり、彼女は何か隠しているのだろう。意識的か、無意識的か、目的の中心にある信念の部分についての話に触れないようにしているように彼には感じた。