その時彼女は 4
夕来は水の魔法を使って、メリーさんに攻撃したが、魔法は彼女の目の前でかき消された。しかし、水の盾は機能していたことを考えれば、水の槍も敵に当てる手段があるということだろう。それをすぐに見つけ出すことは出来ないが、それでも先ほどまでの全く勝利の兆しも見えなかった時よりはずっとマシだ。
「あなた、まさかとは思うけど、その力を隠して私に勝つつもりだったのかしら」
メリーさんは彼女の水の魔法を見て、それを超能力だと考えた。それもそのはずでこの世界では魔法より超能力の方が現実的だからだ。魔法を使う人よりも超能力を使う人の方が圧倒的に多いのだから、そう考えるのが当然と言えるかもしれない。
「……できれば、使いたくはない力。でも、死ぬわけにはいかないから」
「そう。最初から出し惜しみなんてしてなければ勝てた、何て言い訳は通じないのに。馬鹿馬鹿しいわね?」
「そうかも。この力を使えば、少なくともここまで苦戦する必要もなかった。それでも、使いたくはないの」
「……それがあなたの信念に関わること、と言うわけね。良いわ」
彼女のスマホが着信する。通話が勝手につながる。
「私、メリーさん。今あなたの後ろにいるの。貴女の信念ごと砕くわ!」
メリーさんのナイフを回避して、水の槍で再び攻撃する。その槍は、彼女の思った通りにメリーさんの前で消失した。見た目には魔法に込められている魔気が、バラバラにされているような印象。つまりはそれを超えるほどの魔気を魔法に込める必要がある。しかし、彼女に魔気を扱うための器官がない以上、その量の判断はできない。それにもし使いすぎて、ミストが倒れる可能性もある。自身の魔法ではないからこそ、その調整が出来ない。ミストが近くにいれば、それをある程度は感じることが出来るが、今、というかあの平原以降、ミストにはあっていないのだ。
彼女はメリーさんとの戦いを続けるしかなかった。どう考えても今の状況では魔法が使えるようになったとしてもやはり、先にばてるのが自分だということは間違いない。何か、突破するための手段が必要だった。
そして、そのころ、白希たちは既に家に着いていた。既に白希たちは眠っていた。妖精たちも彼の近くで眠っている。体内の魔気と彼女たちの体力も回復しなくてはならなかったからだ。
(……! 今のは?)
眠っている中で、ミストは自身の中の魔気がほんの少しだけ減ったのを感じた。目を開けて白希を見ても、彼は眠っているだけだ。魔法を使った様子はない。さらに彼女の中の魔気が先ほどと同じくらいの量減る。その程度の量であれば、自然に元に戻る量だ。しかし、白希以外に自分の体から魔気を消費させられる人は一人しかいないはずだ。契約した人のみが自身の魔気を使用できる。つまり、今この魔気を消費しているのは、あの平原で契約したはずの人だけだ。
彼女はこの情報を得たことで、自身の未来を引き寄せる力の副作用と使って、未来を見ようとした。しかし、それを遮断するように違う映像が頭に流れた。それはあの平原のことだ。かなりの頭痛に苛まれながら、その痛みに気絶しないように、断片的な映像を見た。
「……思い、出した。ユキ、今、行くよ」
「ミスト、どこにいくの?」
ミストが窓から出ようと飛び立ったところで、白希がいつの間にか起きて、彼女にそう訊いた。ミストは少し口ごもりながら答える。
「ボクにとっては大切なこと、思い出したから、その人のところに行ってくるよ」
「……一人で、大丈夫?」
白希の心は彼女を止めたいというのが、正直な気持ちだった。だが、ミストがそう言うことを言っているということは、他の妖精よりも覚悟がいることだ。ましてや一人で外に出るなんて、異世界の頃からいうはずがなかった言葉。この世界でそうするだけの理由がある何かを見つけたということになるだろう。それに彼は知っている。その大切なことを確認したり、行動が終わったりすれば、必ず自分の元に戻ってきてくれるということを。しかし、生きていてくれれば、問題ない。たとえ、戻って来なくても、彼女が元気かどうかはわかるのだから。
白希の問いに、ミストは考える間もなく、彼女が今まで魅せたことのないような強い瞳で言った。
「大丈夫。行く先にはボク一人じゃないから」
彼女はそう言い残して、半分空いていた窓から出ていった。彼はカーテンを全て開けて、彼女が背中で見せた勇気を見ていた。青い空をバックに、ミストが空を飛んでいく。彼女が背中に見せた勇気を感じて、少しだけ知らkは泣きそうになった。寂しさと、嬉しさとそんな気持ちが混ざり合う。
「……父親ってこんな気分なのかな」
ミストが見えなくなっても、彼はカーテンを閉めずにいた。