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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
35 その時彼女は
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その時彼女は 3

「その瞳。あなたも覚悟を持っているのね」


 再び、彼女のスマホに着信。彼女は反射で前に体重を移動させる。視界の中でメリーさんが消えれば、前に跳ぶという命令を体に組みこまれているかのように重心が移動していた。スマホはいつまで経っても通話を繋がない。彼女の重心は徐々に前に移動する。ついにスマホは着信音を止めてしまった。それを見て、メリーさんが笑った気がした。西洋人形の彼女は表情を変えることはない。しかし、今の隙だらけの夕来の状態は彼女が狙ってやったものだということは、彼女も理解できた。今更後ろに重心を移動することは出来ないだろう。もし、できたとしても足は前に出てしまっているのだから、後ろに転ぶだけだ。


「ここで終わりにするわね」


 メリーさんが近づいてくる。既に足が前でにでて、後ろに下がることができ、彼女は今度こそ、後ろに下がろうとした。しかし、既に一歩分前に出ている彼女はすぐに離れることができなかった。メリーさんの持つナイフが近づいてくる。ナイフが彼女の胸の辺りをかすめた。ブレザーの胸の辺りが切れて、中のカーディガンが見えてしまっている。


「っ、はぁぁ」


 自身の危機に息を止めていたことを、息を吐きだしたところで理解していた。


(確実に死んだと思った……。でも、何とか生きてる。まだやれる)


 彼女はブレザーの着れた部分に軽く触れて、体勢を整える。思考しながら彼女はポケットに手を入れる。やはり、改造スタンガンも折り畳みナイフも入っていない。カッターなどの文房具もない。しかし、ハンカチとティッシュ、包帯だけはあった。なんでこんなものしかと思ったが、ハンカチも包帯も使えないわけではないだろう。彼女は包帯を取り出して、シュルシュルと伸ばした。


 彼女が包帯を延ばしている間に、スマホが着信した。今度はすぐに通話が繋がれ、その瞬間に彼女は後ろにメリーさんを感じた。伸ばした包帯を両手に持って、左右に広げる。ピンと張るわけではなく、ある程度緩い曲線を描かせる。そこにナイフが振り下ろされた。それを包帯で受けて、更に包帯の余っている部分をくるりと回す。ナイフに包帯が巻き付いて、刃が隠される。そして、更に包帯を一周させて、ナイフの握りのぎりぎりのところまで包帯を巻いた。彼女はその状態で包帯を引っ張る。ナイフに包帯が引っかかり、メリーさんの手からナイフを奪おうとしていた。しかし、包帯を引いてもナイフは少しも動かない。それは当然で、メリーさんの筋力で抑えている分けではない。ポルターガイストのような力を使っているため、ただの力ではナイフを奪うことは出来ないだろう。


 ナイフを包帯で巻いたところまでは良かったが、その包帯も結局はメリーさんの力によって外された。包帯事奪われて、屋上の外へと移動していく。彼女が持ち物が徐々に屋上の外に投げられていく。


(使えるものがない……)


 彼女は辺りを三わしてみるが、屋上にそもそも何かものが置いてあるということはない。そもそも、彼女のいる場所は許可が無ければ、立ち入ることがない場所だ。誰かが、何かを忘れていくなんてことはまずない。彼女は冷静な頭で、自身のみの力では全くどうしようもない状況であると理解してしまった。


(ミスト、ごめんなさい……)


 彼女は自身に魔法を使う許可を与えた。この場所を切り抜けるために、ミストの力を利用する。彼女にとっては最終手段で、奥の手。最後の最後まで使いたくはない手段だった。だが、それを使うことでしかこの状況を突破できないというのなら、それを使うしかない。


 彼女のスマホが着信する。通話が勝手に繋がり、彼女は自身の背後に何かが来た気配を感じた。もちろん、それがメリーさん以外の何物でもない。夕来はその場所から動かずに、敵をその場で迎え撃つ。メリーさんはそれを彼女の諦めと受け取って、ナイフを彼女に突き刺そうと前に出す。


「水の盾」


 彼女が何かを呟いた。メリーさんにはそれを聞きとることは出来なかった。だから、ナイフをそのまま前に出して、彼女の心臓を一突きしようとする。だが、そのナイフは透き通る水色の液体によって防がれてしまった。


「水の槍っ」


 彼女は水の盾に敵のナイフが触れたのを感じて、魔法を唱える。その瞬間、彼女の前に水でできたランスが出現する。それがメリーさんに向かって、飛んでいく。ただの人形であれば、その槍でバラバラになっただろう。だが、メリーさんはただの人形ではない。彼女の放った水の槍は、メリーさんにぶつかる前に消滅した。


(オカルトと言うか、フォークロア。それも昔からあるようなもの。この程度で倒せるわけがない)

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