二学期前日 4
テレポートで家の屋根へと移動した。周りを見ても、まだそこに戦った者たちがいるのかはわからない。まだ、透明のままなのか、そもそも透明以外の色になることが出来ないのか。何にしても、そこにいるかどうかを確認する方法がない。ミストに斬りの魔法を使ってもらうことは出来るが、それでは奇襲にならないかもしれない。ただ、最初に霧の魔法を使ったときには、すぐに相手は動き出さなかった。霧程度でばれると思わなかったのか。それとも霧自体を透明状態だと認識できなかったのか。何にしても相手の姿を認識できないことには始まらない。奇襲とはならないが、相手の姿を見るために彼は魔法を使うことにした。
「ミスト。何度もすまないが、フルヘイズだ」
ミストは気を悪くしたような様子もなく、霧の魔法を使う。霧は家を覆い、家の中に侵入する。相手が動き出したような音は聞こえない。だが、先ほどは攻撃していても、家の中で音は聞こえなかった。自分が発した音だけが聞こえていたのだ。異世界でのレイスなどの幽霊系のアンデッドも音は出していた。つまりは、相手の行動の結果に衝撃が一切出ていないということになる。この世界の法則で言えば、少しでお動けば、空気が揺れて音が鳴るのは当然のことだ。その存在だけがこの世界で認識できるということだろうか、反対に考えれば、姿だけは認識できるということになる。その原理もわからないが、宇宙人や全身髪の毛で覆われてるやつもいた。彼自身も異世界に送られている。オカルトは現実にもあるということを自らの経験を持って知らされてしまった。つまりは、この透明な敵も何かしらのオカルトということになるのだろうか。姿しか見えず、家の中に勝手に侵入できる。ほとんどの攻撃は通らず、物理攻撃なんかは無意味。魔法を使えるからこそある程度抵抗できたが、魔法も使えないただの人なら恐怖を感じるだろう。
「次元の隙間に潜む。そんなオカルトあったなぁ」
次元の隙間に潜むもの。音もなく、いつの間にか家の中に侵入している人型で透明。それに気が付かずに家で生活をしているといつの間にか、家を乗っ取られて、住人はそれに取り込まれて新たな家を乗っ取りに動くというものだ。それを始めて聞いたときは、異世界に行く前で信じるわけもなかったが、今では信じるしかない。ちなみに話の中では対処法は、侵入したのが一体の時にそれを追いだすしかないということだ。ちなみに、話の中では追い出す方法は具体的には説明されていない。当時はこの話を考えた奴はここで飽きたのだろうなと思ったが、もし本当にこれに襲われていたとすれば、対処法もないというのは理解できる。
「次元等なら都合がいいね、これ」
彼は自身が握る剣を見た。その剣は斬撃をどこに居ても当てることが出来る問う物なのだから、次元の隙間にいても当てることが出来るかもしれない。
「みんな、家に入るよ」
彼はそう言い、庭に降りた。家の中には霧が留まっている。無限に発生する霧のせいで、外に漏れる霧の量が発生する霧の量より少ないのだ。そして、霧の中でひときわ不自然に動いている場所が三つほどある。
彼はその動く何かにむけて剣を振るう。剣はひゅっと音を立てて、真下に振り下ろされた。目の前には何もなく、剣先が地面にささる。だが、人影の内の一人が倒れたように見えた。それからも、彼は剣を振り続ける。そこにいる者たちに、攻撃が何度も当てられる。それで倒したのか、霧の中で人が動いている様子はない。だが、油断はしない。彼はそう警戒をしていたはずなのに、腹部に衝撃を感じた。既にぶつかったそれを回避することは出来ずに、庭にある壁に背中をぶつけた。痛みはあるが気にするほどではない。
「視界に頼りすぎてるってこと?」
「シラキっ。ファスとプロイアが手伝ってあげるわっ」
「いやそれは、ファスにもプロイアにも負担がかかるよ、ってもう使ってる……」
彼の視界の色が変色する。今まで見えていた色がにじみ、その境界線が交わる。その代わりに霧が全く見えなくなる。家の中に何かがいるのがはっきり見えた。それは次元の隙間に潜む者なのだろう。人型ではあるが、体は楕円と言っていいほど太っている。そこに細く短い手足がくっついていて、それに首はなく、楕円に半球の頭がくっついていた。体にはないも纏っておらず、人間なら裸の状態だ。それらは倒れたと思っていたが、既に起き上がっていたらしい。そして、それらは明らかに彼を見ていた。
ファスとプロイアの辺りを感知する魔気の使い方を無理に彼に渡すという力だ。無理に渡すというだけあって、二人にとっては魔気を扱う力も一時的に渡すことになる。妖精は魔気が無ければ存在することが出来ない。それを一時的とは言え、白希に貸すというのは、妖精以外にはわからない苦痛があると聞いた。それを彼女たちは彼に勝手に渡したのだ。
「すぐ決着を付けないと……」
自らそれを彼女たちに返すことが出来ない以上、早く戦闘を終わらせるしかないと彼は覚悟を決めた。