その時彼女は 1
宇宙人のボス、コンクエストを倒した彼女たちは、森から脱出していた。もう夕方になるころで、どれだけ長い時間戦っていたのかと思う。通学中には既にこの場所に向かっていたのだから、昼よりもっと前から戦っていただろう。全身がべたべたしている。いつの間にか大量の汗が出ていて、今はその汗が退いて、少し寒いくらいだ。全員が満身創痍で、白希が一番マシだろうが、それでも大量の汗をかいていたことは変わらない。一番酷いのは竜花だ。影を操るという超能力を長時間全力で使っていたのだから、当然といえば当然だろう。猩花は小学生であるせいか、彼女の体は彼女が動けなくなるほどの限界が来る前に超能力が解除されていたようだ。竜花が白希に背負われてるのに対して、猩花は自らの足で歩いている。菜乃花の衣服も彼女自身の血で塗れている。超能力を扱えないため、その血を支配下に置いて回収することが出来ないのだ。彼女が操っている血液はほとんどが何かから回収した血だ。彼女の体にはあまり負担は掛かっていない。しかし、それでも彼女が多少は混じっているため、彼女は貧血寸前のような状態ではあった。歩くので精一杯と言ったところだろう。そして、蓮花は戦闘後には息が切れて、その場に座り込んでしまうほど疲弊していたが、いつものように歩く程度には体力が回復しているようだった。彼女も連続でテレポートを使用していたはずだが、彼女は竜花よりも体力があるようだった。
彼女たちは学校には行かずに、家に帰る。もはや、授業なんて受ける気力はなかったし、何より、全員が風呂に入ってベッドの上ですぐにでも眠りたい状態なのだ。この町だけではなく、世界も救ったかもしれない勇者たちの中身は当然、ただの人間で疲れたから休みたいというのが全員の本音だった。
(王子様。今日はもう帰っちゃう……)
全ての戦闘を学校の屋上から望遠鏡で観察していた彼女は、白希たちが森から出て、家に帰ろうとしているのを見ていた。彼が家に帰るというのがわかると、望遠鏡を降ろして、少し落胆した様子で溜息を吐いた。彼女の生きる意味に今日は会えない。しかし、彼女はミストに見つかるわけにもいかないので、今までのように簡単には近づけない。彼女は再び望遠鏡を覗こうとした。その瞬間に視界内の森の中で何かが光を反射した。望遠鏡で白希をもう一度見た後に、何かが光った方へと望遠鏡を向けた。既にそこには何もいない。見間違いかと考えているが、彼女は白希を先に見ているのだから、それが先に移動した可能性の方が高い。しかし、彼女は結局はその光については既に頭の中から離れていて、屋上から出ようと考えていた。望遠鏡をスクールバッグの中にしまう。その瞬間にスマートフォンがなった。画面には電話には番号が描かれているが、それがどこの誰の番号なのか、わからない。彼女は誰かわからない電話には出ない主義なので、電話を切るために画面に触れようとした瞬間、電話が勝手に電話に出てしまった。さらに通話は勝手にスピーカーになっている。
「私、メリーさん。今、あなたの視界にいたの。これ以上、彼らの助けになるようなことはしないことね」
その出だしの一言で、彼女はすぐに相手がどんな存在なのか理解する。オカルトが好きでなくとも、その話は耳にしたことがある人は多いだろう。人に捨てられた人形、メリーさん。電話を利用して徐々に近づいてきて、最後には電話に出た人の背後に出現して、人を呪い殺すという話だ。この町には宇宙人がいる。超能力者もいる。神隠しにも遇った。つまりは、このメリーさんは本物である可能性が高いだろう。しかし、夕来はメリーさんに怯えるような人間ではなかった。
「それは無理。私は王子様のために生きてるから。貴方がどんな妨害をしても、私は王子様の味方。あなたこそ、私の邪魔をしないで」
メリーさんに聞こえているのかどうかは知らないが、電話は通話中であるにも関わらず、相手からの返事は来ない。そして、通話中だというのに、再びスマートフォンが着信音を鳴らした。通話は勝手に途切れ、再び電話が勝手に通話を繋ぐ。
「私、メリーさん。今、貴女の学校の通学路にいるの。あなたにも守るべきものがあって、それが彼と言うことなのね」
電話から聞こえる声に彼女は返事をしなかった。どうせもう何度か電話が来るはずだと彼女は確信していた。
「私、メリーさん。今、あなたのいる学校の前にいるの。同じ志を持つ者として、少し罪悪感はあるのだけれど」
着信から通話を繋ぐまでがスムーズに動く。勝手にスマートフォンを通して、メリーさんは彼女に話しかけている。そして、彼女は返事をする前に、再びスマートフォンが着信した。
「私、メリーさん。」
「今、貴女の後ろにいるの! 死んでもらうわ」
スマートフォンと彼女の後ろとで同時に声がした。スマートフォンから異音がして、ノイズが聞こえたのちに電話が切れた。