征服者 7
「少しは減ったと思うけど、まだまだっぽいね」
「私の体力も結構消費してしまいました。艇が生物じゃないせいで、血液や肉から命の力を奪うこともできません。消費する一方で、渇いてきますね」
白希と菜乃花は空飛ぶ砲台と戦っている。何十機と落としたと思ったが、それでも二人を取り囲むほどの数がある。白希と菜乃花の視界の端には自分たち以外の三人が戦っているのが見えていた。確実に苦戦しているのが見えて、すぐにでも助けに行きたいところだが、砲台を掻い潜って妹たちの助けに入ることが出来ない。白希にもそれは理解できていることだった。数も多少は減ったが、一人でこれを全て引き付けておくことは難しい。菜乃花をこの場所から逃がすことは出来るだろうが、砲台が彼女について行けば、菜乃花を離脱させる意味があまりないだろう。だが、このままだと、単純な消耗戦になってしまう。そうなれば、超能力者と言えども人間の方が不利なのは間違いない。
「みんな、少しの間、僕の空間の中に隠れていてほしいんだ」
妖精たちは彼が何をしようとしているか、細かいことはわからないが、彼が無茶をしようとしているというのはすぐに理解した。彼の空間の中にいれば、少なくとも彼が死なない限り、妖精たちに危害が加わることはない。彼が自分たちを大切にしてくれているのはわかっているが、彼が危険な状況にあるとわかっていて、自分たちだけが安全な位置にいるというのは、嫌だった。異世界で、いつかの戦いのときも彼が勝手に一人で戦いに行ってしまい、彼が無事に帰ってくるのを祈るだけだったが、今回は違う。今度こそ、彼が再起不能になるほど、ボロボロになるかもしれない状況で守られているだけではないのだ。
「シラキ、ファスは隠れたくないわ!」
「私もです。シラキが怪我をしても私が治せます」
「ボクも、一緒がいい。ボクが、皆の未来を引き寄せる……!」
「私もシラキと戦うよ。五人そろえば、敵はいない。そうでだよね?」
妖精たちは、二人に迫る砲台からの攻撃を魔法で撃ち落として、それぞれ主張する。そこでようやく思い出したのだ。妖精たちを置いて戦った時のこと、彼女たちを危険な目に合わせたくないというのは、彼女たちも一緒なのだと思ったのだ。
「うん、ごめん。じゃあ、一緒に戦おう!」
妖精たちの士気が一気に上昇する。好きな人に頼られている。一緒に肩を並べて戦うことが出来る。そして、何より大好きな人を守ることが出来るという状況が嬉しかった。
「菜乃花、僕が道を作るから、あの機械を倒して来て!」
「だけど、それは……」
「大丈夫。僕らは負けないから」
彼の瞳にも声にも、強い意志があった。さきほどの手詰まりを感じているようなものではないことはすぐに分かった。しかし、彼にこの場を任せる他のこの状況を突破できる作戦があるわけでもない。彼にこの場を任せるしかないのだ。
「……わかった。でも、無茶はしないでください。ここで終わりじゃありませんからね」
「わかってる。プロイア、ロードオブスカイ!」
彼の周りに空気の流れが作られて、それが彼女の背後から 真っ直ぐに流れる。砲台の攻撃も砲台自身も宙にできた風の流れに阻まれて、それ以上は進むことが出来ない。風の流れが菜乃花に見えているわけではないが、砲台が移動できにない場所が道となる。彼女は空の道を飛ぶ。白希の方に少し視線を向けると、彼は先ほどよりも生き生きとして戦っていた。
(ここは彼に任せるしかない。その通り、私は速くあれを倒さなきゃ)
彼女は空の道を飛びながら、敵本体に向かう。
「シラキ! 全力で魔法を使えるよ!」
フレイズが彼にそう言った。それもそのはずで、周りに味方がいれば、影響のある魔法は使えるはずがない。しかし、今、菜乃花を妹たちの方へと送ったため、周りには敵しかいない。
「うん。じゃあ、ヘルランドを使おうか」
妖精たちの周りに彼女たちには似合わない色の魔気が流れ始める。フレイズの周りには青い魔気が、ミストの周りには白い緑の魔気が、プロイアの周りには白い魔気が、ファスの周りには黒い魔気が漂っていた。それぞれの着ている服の上にアーマーのようなものが付いていた。フレイズが猩花と共に平原にいたときに使った魔気の操作だ。強力な魔法を常に使うことが出来るがその分魔気が消費が増える。フレイズがあの時倒れたのは、最上級の契約者が近くにいなかったからだ。だが、今の状況は白希が近くにいる。彼が魔気の管理をするため、全ての魔気がいきなり消費されることはなくなる。それは他のみんなも一緒だった。
白希と妖精たちの周りには火や水、風に岩が暴れている。魔気の出力は管理しているが、外にでた魔気は暴走する。辺りにある砲台を巻き込んだ、その様子はまさしく地獄と言うよりは天変地異と言うレベルだろう。