征服者 4
蓮花の血の剣を片手で抑え、敵は剣を抑えていない方の手を動かした。動かした掌を蓮花に向けた。そして、掌が開いて、中から巨大な銃口が彼女に向けられていた。彼女はそれだけで逃げようとは思えず、相手の攻撃が来る瞬間に逃げようと考えていたのだ。少しでも相手の力を削り、少しでも早くこの敵を倒したいのだ。
「ライトビームカノン……!」
相手がそう呟いた瞬間、敵の掌の銃口に光が集まる。それでも彼女は回避しようとはしなかった。明らかにあの攻撃を食らえば、少なくとも瀕死になることは簡単に予想できた。そして、ついに彼女に向けて真っ白く光るビームが発射された。彼女の想像を超える速度で、伸びるビームに彼女は回避する時間はないと考えていた。回避を選択してもしなくても、彼女が作り出した血の剣は一時的に壊れてしまう。それでも彼女は最後のあがきとして、血の剣をさらに強く下に押し付ける。火事場の馬鹿時からとでも言うべき、全力を超えた力で血の剣が相手の腕を押さえつけ、相手は膝を折り、地面に少しだけめり込んだ。
「ははハ、最後のあガキか? だガ、無駄だったナ」
彼女にビームが到達する。光の中には彼女の影すらない。ビームが消失すると、そこには菜乃花の姿は全くなかった。彼女の周りにあったはずの血も全てがそこになかった。しかし、敵はすぐに彼女が消滅していないと理解する。それが敵を殺したならば、そのエネルギーを敵は奪うことが出来るからだ。そのエネルギーの総量が少しも増えていない。
敵の思考をあざ笑うかのように、背中に衝撃を受けた。ゆっくりと視界を動かすと、そこには菜乃花と白希が宙に立っている。
「正直に攻撃しすぎだね。慢心と油断は大敵だよ」
白希の言葉は敵には届いていない。それくらいの小さな声だ。しかし、菜乃花にはその声は聞こえていた。彼女は本当にビームによって、死ぬ覚悟でそこにいたのだ。だからこそ、相手も油断したのだろう。回避する気配がないということは、ビームの威力を知っている本人は確実に倒せると判断したはずだ。そこを白希がテレポートして、彼女を移動させる。たったそれだけだ。
「そろそろ、君に費やせる時間もなくなってきた。決着をつけないとね」
白希の周りに、火、水、風、土の四つの球が浮いていた。
「僕らのとっておきだ。持って行って?」
四つの球からはそれぞれの属性の刃や球などが連続で飛び出していく。連続で攻撃してはいるが、その攻撃が相手に訊いている様子はあまりない。相手が機械でなければ、強力な魔法だったかもしれないが、マシン相手には効果は見られないようだった。
「フレイズ、ファス。コメットフォール!」
四つの属性を操りながら、彼は魔法を唱える。彼は空を指さしていた。
「君にはこっちの方がきついかもね」
いつの間にか空には巨大な隕石が出現していた。ここら一帯に影を落とし、徐々に地面に近づいていく。敵は両手を隕石に向けた。銃口が二つになる。
「ダブルライトビームカノン……!」
両の掌に光が収束して、一気に解放される。衝撃波のようなビームが隕石に向かって飛んでいく。隕石にぶつかると、ぶつかった部分が崩れて、辺りに散らばり、最後には粒子になって消える。ビームが徐々に隕石を削っているが、その程度の速度では隕石が落下し終わる前に破壊することは不可能だろう。落下速度も緩くなっているが、それでもコメットフォールが敵に直撃する方が先になる。
ついにビームの有効射程範囲の内側に入る。巨大な自身の手で、隕石が落ちるのを抑えている。その姿だけ見れば、地球の救世主に見えなくもないが、相手は侵略者。相手の足が地面にめり込んで、徐々に下に下がっていく。
「ぐ、ぐおオオオオオオォォォ!」
機械が声にさらにノイズが混じる。隕石は確実に相手にダメージを与えている。既にコメットフォールの下から抜け出すことは出来ないだろう。
だが、コメットフォールは魔法だ。そこに込められた魔気や想像力が終われば、魔法は消える。コメットフォールにもついに込められている想像力が結果を生み出して消失した。
「……ク、ク、クハハハハ! 褒メテヤロウ、人間ドモ! コノ俺ヲ、ココマデ追イ詰メルトハナ!」
先ほどの叫び声のせいで、声を発する器官がおかしくなったのか、敵の声には常にノイズが入るようになっていた。それは確実に敵にダメージを与えられている証拠だろう。
しかし、これだけやっても声の影響が出るだけで、機体には深刻なダメージは入っていないように見える。強力な魔法を使ったため、白希と言うか、フレイズとファスは魔気を回復しないと、同じ魔法を使うことは出来ない。彼らの策が一つずつ潰れていく。