征服者 2
円盤が変形したおそらく宇宙人のボスであるコンクエストが、彼らの前に立ちはだかる。白希が持っている強力な黒い壁を作り出す土の魔法も二度目で破られてしまった。彼は宙にテレポートして相手の攻撃から逃げていた。
彼の防御の魔法を貫いたのを見て、朝野姉妹は攻撃を受ければ一撃で倒されると認識した。さらに、白希の火の魔法も効果が出ていない。それも相まって、彼女たちは自分たちに勝つための手段があるのかと、絶望に片足を入れていた。しかし、ここでそのまま絶望に呑まれるようなら、オカルトと戦うことは出来ない。目の前のロボット以上に理不尽な相手も沢山いるのだ。ロボットで攻撃が効かないかもしれない程度のことで、絶望に身を落とすことはない。白希も含めて、全員が諦めるわけにはいかないのだ。
「血も流れないのを相手にしても興奮しませんね」
彼女の周囲に血の流れが出来ていた。そこから血が分烈して、彼女の周りには真っ赤な血が溢れている。彼女の周りはおぞましいと言った方が正しいだろう。その中心にいる彼女はかなり異質だ。彼女の周りにある血は敵の方へと移動していく。それは敵の周りで停滞する。その血の水滴から一斉に中心にいる敵に向けて、いくつもの真っ赤な針が伸ばされた。
「小賢しイな。数で押ソウと言うノか? 甘い、甘イナ!」
敵の腕が一振りされれば、全ての血液が払われて、相手には少しのダメージも入っていなかった。彼女は振り払われた血を回収して、今度は彼女の周りに流れる血液から、真っ赤な槍を作り出した。先ほどの針よりも大きなもので、少しはダメージが通りそうな見た目をしている。彼女はその槍を相手に向けて飛ばした。相手の巨体は確かに硬いが、攻撃を当てるだけなら簡単だ。彼女の作り出した血の槍は相手の腕の辺りにぶつかった。しかし、槍は弾かれて、血に戻り、彼女の下へと戻る。
「これでも駄目ですか。簡単に力押しで倒せる相手ではないということですか」
菜乃花はクールにそう呟いて、攻撃を止めた。相手の手の届く範囲には彼女はいない。攻撃しようにも地上に立っているだけでは、彼女には攻撃が届かない。
「戦場の端カら攻撃サレルのは、少々腹ガ立つ。先に沈ンデいてモラおう」
敵の手がゆっくりと動いて、彼女に向けられる。彼女は相手の動きを見て、自身の周りにある血液を自身の前の前に展開する。白希の使っていた土の防御の魔法のように彼女の前に血の壁が出来上がる。相手の指先が彼女の方へと向いた。
「グラビティカノン……!」
相手の指先から何かが射出された。それは黒い球体だ。見た目には完全な球体と言うわけではなく、表面にはテニスボールのような線が入っている。それが彼女に近づいていき、その球が近づいていくにつれて、彼女は上から押さえつけられていた。そして、更にその黒い球体が近づいてくると、その力は強まる。黒い球体が彼女の頭の上、十メートルほどに移動すると、彼女は宙にいられずに、地面に叩き落とされた。彼女は宙を飛ぶこともできず、その重力の範囲からも逃げられず、地面に押さえつけられた。最初こそ膝を付いていたのだが、徐々に上からの力に抵抗できなくなり、両膝を付いて、四つん這いになり、最後に地面に体が押さえつけられた。
「くっ、動かない……」
腕や足を少しだけ動かすことは出来ても、そこから何ができるわけでもない。仰向けになることが出来れば、血を操って黒い球体に攻撃することもできたかもしれないが、体を反転させることもできないのだ。自分は確かに強くなったはずなのに、結局は何もできない無力感を感じて、地面を殴りたいが、その手を持ちあげることもできない。
「菜乃花。……プロイア、エアカッター!」
そんな彼女が地面に落ちていく様子を視界に捕らえた白希は風の刃の魔法を使い、黒い球体を斬ろうとしてた。しかし、風の刃は黒い球体に届く前に、重力の力場によって、魔法の中の魔気が地面に引かれて消えた。
「テレポート、は危険かもしれない。彼女を助けに行って、自分も動けないなんてことになれば、勝てる見込みも少なくなるかもしれない」
口ではそう言いながらも、どうにか彼女を助けようと考えていた彼だが、どこからか、白く輝く三日月型の何かが飛んできて、黒い球体を壊した。その攻撃は彼も知っている。しばらく姿を視ていなかったが、菜乃花を命の恩人として、彼女に従っている九尾、琥珀だ。どこに居るのか、白希もわからないが、菜乃花を助けたのは間違いない。
「ふぅ、はぁはぁ。また、助けられた……。いや、今は落ち込んでる場合じゃない。戦わないと」
地面に染み込んでいた血が、再び彼女の周りを流れ始めた。