征服者 1
重低音を響かせながら、円盤は徐々に影の中から上昇する。影の中に埋まっていた円盤はその姿を再び現した。影で包んだはずの円盤は元の色でそこにあった。円盤の周りに残っていたエイリアンが集まる。そして、円盤の下に移動すると、円盤の中に吸い込まれていく。
「最後ノ仕事だ。光栄に思うガヨイ」
円盤の中で、何かが潰れるような鈍い音がした。円盤の下に緑色の水溜まりが出来ていた。円盤から発される重低音を聞きながら、白希たちは何もできなかった。竜花と蓮花は白希の近くに移動して、円盤を動向を見守っていた。猩花と菜乃花も彼の近くに移動していた。五人と四人の妖精は、円盤を見上げることしかできない。そして、円盤が少しだけ浮遊した。逃げるための準備をしているのかと思ったがそう言うわけではなかったらしい。円盤は左右に開かれて、中の構造を見せる。しかし、中には歪な長方形があった。それが縦に回転して、長方形に線が浮き出て、分割されていく。しかし、それらは離れるわけではなく、別の形に近づいていく。長方形の下の部分は二股に分かれて、左右の長方形からつま先のような部分が出てくる。
円盤の部分は左右に展開して、中心の長方形から腕のように形を変える。婉曲していた部分は二つに分かれてた。その先端から手のような物が出てきていた。体の部分は前後に浮き出るように形を変えてブロックで作った球形のような形になった。そのせいで、腰の辺りがスリムに見える。最後には長方形の一番、上の辺りから正方形が飛び出した。それはところどころで展開して、顔を形作る。黒い兜のような物だが、額の辺りには三角形で緑に光る何かが付いていた。最後に顔とみられる部分から二つの赤い光が輝く。そこまで行くと、円盤だったものは腕を何度か開閉して、左右それぞれ二度ほど上下に足を動かす。
「全力デはないガ、十分ダロウ。貴様タチにハ、このオレ、コンクエストのえねルギーになってモラオウか」
重低音の言葉を白希たちに投げかけているそれは、彼らはここで倒さなくてはいけない敵だと思った。この場所で倒さなければ、この町どころか、この世界が危険に晒されることになるかもしれない。おそらく、現代の兵器がこのオカルトの存在に傷をつけられるとは思えないのだ。倒せるとすれば、この世界でも奇異な庁能力や魔法になるだろう。
「つまり、僕らはこれを倒せる力を持ってるってことだね」
「これが最後の戦いだ、みたいな敵だね。ボクらの訓練でどれだけ戦えるようになってるのか、確かめるには最適な相手だよ」
白希と竜花は、既に戦闘態勢になっていた。二人に引かれて他の者たちも戦闘態勢を取る。
「フレイズ。レッドドラゴンブレス!」
白希が火炎放射を放つ。彼の魔法がコンクエストと名乗るロボットの体に炎がぶつかる。確実にぶつかっているはずだったが、相手は炎の中をゆっくりと進んで、近づいてくる。周りにある木より背が高く、その一歩は大きい。一歩進んだだけで、彼らを近接攻撃の射程に捕らえてしまうのだ。彼女たちは一か所にまとまらずにばらけた。白希だけが正面を陣取ったまま、レッドドラゴンブレスを使用し続ける。魔法は起点、過程、結果を想像して使用できるため、魔気が無くならなくても魔法は想定していたところで終わる。続けて彼は風の刃の魔法を使用するが、刃は少しも通らない。
「まずハ貴様からダ!」
相手の巨大な拳が彼を狙う。その巨体に合わせた巨大な拳。動かなければ、ぺちゃんこに潰されて終わりだろう。しかし、彼は回避をしようとはしなかった。相手のパンチが彼に触れる前に巨大な黒い壁を出現させた。土の魔法の中でも最高高度を持つ黒い壁だ。土の魔気の密度が限界まで引き上げられているため、その高度はどんな魔法も通すことはないものだ。だが、それは異世界での話であった。彼の作った黒い壁は一撃は防ぐことは出来たが、一撃で壁にひびが入ってしまっていた。続けて二撃目を食らい、黒い壁はあっさりと破られた。黒い壁を破った拳がそのまま彼に向かって伸びていく。
「これは、手強いね」
彼はテレポートを使用して、その場から離脱した。辺りを見回せば、朝野姉妹はそれぞれ、違う場所で攻撃を開始しようとしていた。猩花だけは、周りにいた一般人を外に逃がしている。誘導しているのはにゃむとハチだ。白希をターゲットにしている間に、逃がしたいところだが、そこにいた全ての人間をすぐに逃がすのは難しい。列を作ることもできずに、一般人は散り散りになり、逃げまどう。しかし、この場所に戻ってくる阿呆はおらず、この場所から逃がすという目的は達成していた。
「オレの贄が勝手に動クナ。オレニ殺さレ、オレのタメのえねるぎーをサシダスのだ!」