森の中の人の檻 4
蓮花は竜花が走り出そうとするのを抑えながら、入り口からさらに他の人に紛れて中に煤で行く。くすんだ白い廊下を進みながら、竜花は周りの様子を確かめていた。蓮花は周りの人の状況を見ていた。この人数をテレポートで動かすことは出来ない。つまりは入り口からこの人数を無事に出さなくてはいけない。
「そろそろいいかな。もう我慢ならないんだけど」
竜花が蓮花に小さな声でそう言った。確かに入り口からは離れているが、できればもう少し中に入ってからの方が良いだろう。
「少し危険ですけど、人の間を掻い潜って前に進みましょう。どこかで人が集められている場所あるはずです。まずはそこで暴れることにしましょうか」
竜花に目標を言うと、竜花は蓮花の手を引いて、人の間を掻い潜り、前に進んでいく。彼女の超能力のお陰で、誰にも気が付かれていない。周りにいるこの列を監視している灰色のエイリアンも特に気にている様子はない。人々を無理やり前に送るようなことはなく、ただただ列を見つめているだけのようだった。
竜花と蓮花は列を前へと進んでいく。流れる人の目には光はなく、単純に全てを諦めて、この流れに身を任せているだけだった。そんな人の中を進むのは難しくはなかった。結局は彼らは竜花と蓮花に気が付くこともない。既に周りを気にするほどの精神状態ではないのだ。だが、それは二人にとっては好都合だった。誰かに気が付かれた時点で、彼女たちは前に進むのは難しくなるだろう。誰かがおかしな行動をすれば、そこからエイリアンにばれてしまうことになるかもしれない。二人は更に前に進んでいく。
二人の前に、学校の中にあるような大講堂のような場所が見え始めた。扉はタコ型のエイリアンが入れるほど大きなもので、その中に列を流れる人々はその中に入っていく。大講堂の中には赤いふかふかの椅子が映画館のようにいくつも並んでいた。その椅子が向いている方向にはステージがあった。誰かがそこで演説でもするかのような台が置いてある。二人は第高度の中には入らない場所で留まった。中に入るのは、理由はわからないが嫌なのだ。何か起こるかもしれないと感じているのかもしれない。そして、流れを無視してとどまってしまったことで、彼女たちの後ろにいた人が彼女にぶつかった。さすがにぶつかれば、絶望していようとも顔を上げてしまう。ぶつかられた竜花とその人の視線が合ってしまった。そして、そこで流れが詰まったのをエイリアンは見逃さなかった。灰色のエイリアンが近づいてくる。彼女たちにぶつかった人はエイリアンが近づいてくるのを見つけると、すぐに大講堂の中に入っていった。二人はそれに続くことはなく、その場に留まり続ける。既にエイリアンは流れに逆らい止まっている二人に気が付いている。
「竜花、先手必勝です。暴れましょう。この講堂から人を逃がしましょう」
「そうだね。わかった。ようやく、暴れられる!」
蓮花は超能力を使用する。灰色のエイリアンの背後に移動して、その腕を掴む。そして、今度はエイリアンをテレポートさせた。エイリアンの視界は少しだけ低くなる。何が起きたのか、エイリアンは理解していなかったが、その姿を俯瞰で見ることが出来れば、中々間抜けな姿だ。地面に体がめり込んでいるのだ。それもぴったりと埋まっていて、エイリアン自身の力だけでは抜け出すことは不可能。じたばたと手足を動かしても抜けられる気配は全くなかった。そして、彼女はトンカチを取り出した。その武器を振りかぶり彼女は思い切り灰色のエイリアンの頭を殴りつけた。ドゴンと鈍い音がして、エイリアンの頭の一部がはじけ飛ぶ。ただのトンカチの威力ではない。彼女が衝撃をテレポートさせて、同じ場所に何重にも威力を上昇させたのだ。蓮花は非力ではないが、どれだけ非力な人間でも衝撃を何重にも重ねて放つことが出来るなら、強力な攻撃になる。だが、その鈍い音のせいで、周りにいた全ての人とエイリアンの視線が向いた。その瞬間、完全に彼女に影が元の濃さに戻ってしまた。だが、皆の視線は彼女を捕らえることは出来なかっただろう。なぜなら、彼女がいた場所にはいつの間にか黒い球体が出現していたのだ。
それは竜花の超能力。彼女も自身の超能力について考えて、超能力の使い方については特訓したのだ。単純に今の彼女は操ることが出来る影の範囲が広くなっている。そして、それは平面だけではなく、影を立体としても捉えることもできるようになっていた。彼女が発生させた黒い球体は地面の中にスゥと消えて、竜花の近くに移動させた。竜花の影から、蓮花が出てきた。今、人の視線を集めているのは、頭のはじけたグロテスクな灰色のエイリアンの死骸のみだ。
「姉ちゃん。ちょっと集中するから。守って」
竜花がいつもの調子ではなく真剣な目で、蓮花にそう言った。彼女がそう言うときは大胆なことをしようとしようとしているときだ。彼女は守ってと入っていた物の、黒い球体に連れてこられたときに再び影は薄くなっている。彼女の準備が完了するまで大人しくしていればいいだけの話だった。