森の中の人の檻 3
菜乃花の攻撃を回避した男性は地面に降り立つ。そして、地面に立つそれを見て、彼女はその姿を思い出していた。一度家に襲撃にきた奴らだった。人型の蜥蜴。蜥蜴人間とでもいうような見た目をしている。相手は腰についていた何かを手に握ると、それは棒のような形になった。そして、その先端から半透明の光の板のような物が出てきて三角錐を作っていた。光でできた槍のようなものだろうか。彼女はその槍を見たことがあった。家に襲撃に来た時もその武器と同じようなものを使っていたはずだ。
「あの時は、琥珀に助けてもらったけど、今度は自分の力で勝ちましょうか。あはは、滾る血をどうか、楽しませてくださいね!」
菜乃花にとっては、全く動けなかったあの時のリベンジ。ヴァンパイアの渇きとリベンジを果たせるという高揚感が彼女を興奮させる。先ほどよりも操っている血の量は三割増しほどにもなる。彼女が血で作る刃は先ほどの物より大きいだろう。
「地球人と言うのは中々面白い。同じ生物でもここまで違う。そして、ここまでの生命力。君は一番働けるだろうな。こうなってくると倒してしまうのが惜しい!」
彼女の言葉に応えるように、しかし、全くかみ合わない言葉をお互いに出しながら、本気の姿の戦いが始まった。
菜乃花の戦いを横目に見ながら、白希と猩花は着実にタコ型を倒していった。未だ三体ほどしか倒していないが、全て片付くのも時間の問題だろう。
「フレイズ。れっどどらごんぶれす!」
猩花も火の魔法の使い方をある程度は覚えて、既に白希が使ってきた火の魔法は簡単に使えるようになっていた。彼女が使用する火の魔法がタコ型のエイリアンの体を焼く。しかし、体の全てを焼き尽くすことは出来なかった。白希がそれのカバーをするように、四属性の魔法を駆使しながら戦う。タコ型のエイリアンをさらに倒していく。
しかし、敵の数は今まで戦ってきた中で一番多かった。いくら猩花が練習して強くなっていても、白希がいくら強いと言っても全てを見ることが出来るわけではない。猩花は自身の攻撃に夢中になり、自らの防御がおろそかになっていた。白希はそれに気が付いていても、触手の嵐の中を潜りながら、彼女を守ることはできなかった。徐々に二人の間の距離が空いていく。瞬間移動を使用して、彼女の近くに移動しようにも瞬間移動をするための一瞬の隙も無い。彼は猩花のことを気にしながら、戦い続ける。そして、彼の視界には猩花の周りに幾つもの触手が叩きつけられようとしている光景だった。
「っ」
彼は攻撃を受けようとも瞬間移動を開始した。瞬間移動には成功しているが、転移先が詳しく見えないせいで一直線に彼女の場所まで移動することが出来ない。焦りのせいで、彼の頭の中に選択肢が少なくなる。そして、ついに触手が猩花に振り下ろされた。ドスンと言うような衝撃音が彼の耳にも聞こえた。しかし、触手は地面についてはいない。彼女は大きな何かに守られていた。見づらい視界の中で、彼女を守るそれを一瞬だけ見ることができた。それは欲見ていたそれだった。熊のぬいぐるみの小太郎だ。猩花がそう紹介していた人形だ。
彼女の意志でなくとも、小太郎が勝手に巨大化して動くようになっていた。平原の世界で彼女を守り切ることが出来ずに人形に戻されてしまったことが、そうさせたと猩花は言っているが、人形に心はない。彼女の超能力の影響下であるからこそ、人形は動くのだ。つまりは、彼女の危険を感じ取る部分が、彼女の意志とは別に超能力を使用するようになっているというのが菜乃花や蓮花の考えだった。二人の考えが正しいなら、小太郎以外もそうなるべきだが、今のところ小太郎だけが勝手に巨大化するのだ。猩花にとっては一番一緒にいるぬいぐるみ。その絆が彼に自我を持たせたのかもしれない。
彼女を押しつぶそうとしている触手を全て、小太郎が抑え、薙ぎ払う。猩花の背中側に立ち、彼女にひとつの傷もつけさせないというような意志が感じられるような状態だ。白希は小太郎がいるなら猩花を守りを考える必要はないだろうと考え、攻撃に思考を振ることにした。
「竜花、まだですよ。勝手に動かないでください」
「だが、その間に犠牲になっている人がいるかもしれない。それを許せるわけがない」
「だから、もうちょっと待ってください。もっと、中に入ってから動きましょう。まだ入り口付近ですから」
竜花と蓮花は他の人に紛れて、円盤の中に入っていた。中に入ったと言っても、まだ入り口から入ってあまり進んでいない。彼女の影を薄くする超能力でも派手なことをすれば、その効果は即座に消滅してしまう。しかし、竜花はすぐにでも動こうとしていた。入り口が近いのだから、ここでばれてしまうと、すぐに外に出されて終わりだろうと、蓮花は考えていた。