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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
32 平原からの脱出
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平原からの脱出後 5

 初老の男は、開いた本の目に立ちながら、タバコを吸っていた。その視線は本に堕とされていた。どこか後悔しているような悲しい瞳をしている。その彼の隣に熊の人形が勝手に歩いてきた。近くに男性以外には誰もいない、彼がその人形を操っているわけでもない。人形は手を上げて男性の注意を引こうとしている。男性がその人形に気が付くと、煙草が塵になる。


「いや、もう燃やすつもりはない。この本を開いてしまった時点で、私たちは操られていたのだろう。既に、人間は私一人だ」


 人形はどこから取り出したのか、ハンカチを彼に向けていた。彼はお礼を言いながらそのハンカチを受け取り、涙を吹くような動作をした。本当に涙が出ているわけではなく、あくまで熊の人形のためにしたことだ。彼はそのままハンカチを返すと、熊はその場でくるりと回って喜びを表現する。その動きはどこか癒される。彼の口元も自然と緩む。


「久しぶりに笑った顔を見たわ。……そろそろ、終わりにするつもりですか?」


 いつの間にか彼の後ろに出現したのも人形。しかし、それは熊手はなく、綺麗な幼女の人形だ。金髪で大きく飛び出してきそうな目、中世貴族のようなドレスを着ていて頭にはボンネットを着けている。西洋の人形のような見た目で、見る人によっては怖いと感じるだろう。その人形は宙に浮いている。


「ああ、メリー。終わりにするよ。私の仲間ももう君たちだけだ。おそらく、あの四姉妹と、いつも一緒にいる妖精使いがこれを終わらせるだろう。私はもうこのhんを閉じることが出来ないから。君たちはどうする?」


 熊はいつの間にか、十五センチほどの刃渡りのナイフを持っていて、それを振り回していた。それは、彼と共に戦いたいと言っているのだ。熊の人形にとっては、彼だけが自分の世界の住人だ。親友以上の人間が戦うと言っているのだ。一緒に戦えずして友とは呼べない。


「私も、貴方の盾くらいにはなれるだろうから。……横やりを入れそうな、無粋な人も紛れているようだし、貴方の覚悟と共に消滅しようかしら」


「ふふ、負けるのが前提の戦いか。子を守るための力のために開いた本だったが、力に溺れてしまったな。死んでいった彼らも私と似たようなものだが。それでは、最後の準備を開始しよう。まずは、宇宙人と戦争してもらうことにしよう」


 彼は熊を抱き上げて、両手で大切に持って、開いたままの本を置き去りにして、その場を去っていく。彼の後ろにメリーが付いて行く。そして、彼はこの町に潜む宇宙人のリーダーの蜥蜴人間に意思を飛ばした。この町には本当の意味での宇宙人がいるかどうかは彼は知らない。灰色の目の大きな宇宙人もタコ型の宇宙人も、蜥蜴人間の宇宙人も彼が今まで見ていた本の力によって、この町に出現しただけだ。どの宇宙人もただの都市伝説に過ぎない。それがこの町に具現化しただけだった。そして、彼はその宇宙人を操っている。宇宙人側は彼に協力してやっているという態度だが、宇宙人が彼に逆らうことは出来ないのだ。




 その日、誰にも知られず、宇宙人は動き出していた。夜の間にこの町の一部が作り変えられる。宇宙人の技術が発揮されて、一夜でこの町の常識が書き換わる。それは洗脳だ。宇宙人を操っている初老の男性の超能力の一部である夢に介入するという力によって、人の潜在意識に働きかけて、一般人は彼らの操り人形となってしまう。全ての人間に効果があるわけではない。ただの人間でも確実にその効果が出るわけではなかった。


 そして、洗脳の夜が明ける。日が昇り、住民たちは目を覚ます。彼らにとっては何も変わらない日常。洗脳を受けていない者に関しては、この町の異常を感じていた。明らかにおかしいのだ。その理由は簡単で、洗脳を受けた人間は森の中に入っていく。彼らに話を聞けば、仕事をしに行くとだけ言っていた。正気の人間が彼らを説得しようとしても、彼らは聞く耳を持たないのだ。


 白希たちもその町の異常に気が付いていた。学校に来ている人も明らかに少なくなっている。さらに教師自体も学校に来ていないようで、行内放送にて今日の授業は中止するという連絡をしていた。白希たちは、校舎を出ずに朝野姉妹のいる部室棟に移動していた。


「また、人攫いかな」


「しかし、登校中に森の中に入る人を何人も見ました。その中には私の知り合いもいましたが、仕事をしに行くとだけ言って、森の中に入っていきました」


 竜花と蓮花が既に部室の中にいて、白希が来ると三人でこの現状を話していた。次に来たのは猩花だった。彼女は部屋の中に入ってくる前から暗い顔をしているようだった。最初に彼女の話を聞こうとしたのは白希ではなく、フレイズだった。フレイズが話を聞くと、彼女も友達を引き留めようとして、腕を掴んで止めたのだが、それを振り払われて、邪魔だと言われたようだった。最後に菜乃花が入ってきた。


「これは森の中を調査するしかありません。みんな、すぐに森へと移動しましょう」

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