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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
32 平原からの脱出
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平原からの脱出後 4

 白希は日常に戻り、妖精たち全員と共に学校へと向かっていた。ミストはいつものように何も喋らず、肩に座っているが、やはり、平原で協力して戦っていた人のことが気になるようだった。


 しかし、探している人を見つけ出すのはかなり難しい。そもそも、森と平原の世界については、朝野姉妹も記憶が残っていない状態なのだ。つまりは、もしあの世界に攫われた人がいたとしてもその記憶がないとなれば、あの世界のことを聞いても誰も覚えていない可能性の方が高いだろう。


 やはりと言うべきか、学校についても森と平原の世界のことについては誰も話していなかった。あれだけのことがあって、覚えていれば話題に上がらないはずはない。その証拠に、昨日商店街であった不思議なことについては話が出回っている。その話は要約すれば一行で、その内容は商店街にいたらいつの間にか夜になっていたというものである。攫われた先の世界にいたことは覚えていないのだから、当然、事実としてはそう言うことになってしまうのだろう。彼のクラスの中でも、その噂をしている人がいるが、飛んでいる時間にあったことについては何も話が出ていない。


 夕来も白希と同じように学校に来ていた。多少、体調は悪いものの王子様のいるクラスの前を通り、彼を見てから自分のクラスへと移動する。クラスに入り、数名に挨拶を返して、自分の席に着いた。そして、そこで先ほどのことを思いだした。確かに彼を見た。いつもは妖精たちは見えなかったのだ。しかし、今はみえていた。彼の肩にちょこんと座るミストの姿も捉えていた。


(契約したからとしか考えられないけど)


 彼女は平静を装って、鞄から教科書などを取り出して机の中に入れる。彼女の様子がおかしいことなんて、誰も気が付くはずがない。彼女は表面上の付き合いしかしていないのだ。彼女の興味を持っているクラスメートはいない。


(これでいい。私は最初からずっと、王子様を見つめられればそれでいい)


 本を開いて読んでいるが、彼女の目は文字を捕らえられず、小説は一ページも進んでいない。結局は、彼女もミストのことが気になるのだ。しかし、彼女は自分から彼女に関わることはしないだろう。いや、ミストから関わろうとしても彼女は拒否するかもしれない。ミストが苦しむ可能性は出来る限りゼロにしたかった。


 結局、それからミストと夕来が出会うことはなかった。学校で商店街ですれ違うこともない。それもそのはずで、ミストはシラキとずっと一緒にいるせいで、彼女は常に白希の居場所を知っている。ミストとのことが無くとも、彼女は白希に気が疲れずに尾行したり、盗撮したりしているのだ。そもそも、近くにいてもすれ違うこともない。




 それからさらに時間が経った。オカルトは規模の小さなものしか出現せず、町は平和と言っていいだろう。しかし、菜乃花はその静けさが嵐の前触れのような気がしていた。その感覚は彼女の頭が感じた物ではなく、彼女のヴァンパイアの超能力が感じているものだった。つまりは、自身の感覚よりも当たる可能性の高い物だ。


 その勘が当たらないことを祈りながらも、朝野姉妹は自身の超能力や身体操作能力を鍛えていた。菜乃花は既に日の下でもヴァンパイアになり、力を発揮できるようになっていた。全力を出すことは出来ずとも、一人で蜥蜴のエイリアンと渡り会えるほどのには強くなった。蓮花と竜花は共に実戦形式で訓練して、自身の超能力の使い方を覚えていた。竜花は感覚で動かしていたものを、蓮花のように考えながら超能力を使うように。反対に、蓮花は考えるだけでなく、竜花のように感覚で超能力を使えるように。そして、猩花は火の魔法の練習と言うか、フレイズと共に火の魔法を使って遊んだり、フレイズと人形遊びをしたりしていた。それが彼女には訓練になっているようだ。


 白希は、未だに攫われた先でミストが会ったという人の手がかりを探し続けていた。ミストもその人のことを忘れることはできないようだった。時間と共に、その人について考える時間は少なくなっているようだが、それは彼女にとってかなりストレスになっているようだ。他の妖精たちも彼女を励ましているのだが、それもあまり効果はないように思えた。


 それぞれがそれぞれのことをしながらも、成長していた。しかし、彼女たちが成長しきるのを、オカルトは待ってくれるはずがなかった。


「そろそろ、この本の影響を操作するのも限界か」


 机の上に一冊の本が開いた状態で置かれていた。そのページには人が考えたオカルトの名前がリストになって、びっしり書かれている。その本の前に初老の男性が立っている。彼は煙草に火をつけた。煙草を吸って、その先端から本の近くに灰が落ちる。灰はその場に留まらず、何かに引火する前に塵となって消えた。


「燃やすのはもったいないか。いや、そもそも制御できていなかったということだろうな、最初から」

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