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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
32 平原からの脱出
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平原からの脱出 2

 商店街の外には、黒いコートを着た初老の男性がいた。彼は商店街で起こっていたことを記憶していた。


(神隠しなんてオカルトまで起こるとは。規模が大きすぎるな)


 神隠しを塵にしたのは、この男性だった。神隠しのいる森と草原の世界に入ることが出来ずに対処に困って居のだが、誰かが神隠しを弱らせたことで彼の超能力で干渉することで来たのだ。それが何者なのかまではわからないし、知りたいとも思っていない。


(オカルトを引き寄せ過ぎたか。やはり、あの本は消滅させるべきだったか。……いや、既にそんなことを考えたところで意味はないか)


 男性は商店街に人が戻ってくるのを見ると、体を塵にしてその場所から消えた。




 夕来は商店街にいた。いつの間にか、その場所に戻ってきていた。今の今までどこかで大変な思いをしていたことを覚えているのだが、大雑把にしか記憶されていなかった。自分にとってもとてもいいことと悪いことがあったような気がするのだ。しかし、そのどちらも忘れていいはずがないことだということを覚えていた。誰かと共に行動していた。おぼろげながら、そのシルエットを無理やり思い出すように頭を使う。微かに覚えている輪郭を、彼女の脳が勝手に補正して作り出す。青い、小さな人だ。


(人、じゃない。ってことは、王子様の周りにいる妖精。確か、青い妖精がいたはず)


 彼女の頭は勝手に、状況と事実を結びつける。先ほどまでいたはずのどこか。そこでおそらく、青い妖精と行動を共にしていたはずだ。彼女の頭の中にあるもやが多少腫れたせいか、妖精の名前を思い出す。その瞬間、頭痛と共に頭の中に熱を感じた。実際に発熱しているわけではないのだろう。それでも、妬けるような痛みに彼女はその場に膝を付きそうに、体を折る。息も荒くなり、体が痛みに耐えるように勝手に歯を食いしばる。周りの人も彼女のことを心配そうに見る人もいるが、彼女に声を掛けることはしない。


「み、ミスト。そうだ。契約した。水の魔法を、使えるように、最後は……。ミストも無事……?」


 荒い息のまま、彼女は森と平原の世界で会ったことを思いだす。ミストの安否を確認したいが、今の自分の状況から考えて、ミストの記憶もぼやけている可能性があった。彼女が今声を掛けても、知らない人で怖がられるかもしれない。いや、それだけならいい。もし、自分が会って、彼女の記憶が呼び覚まされるときに、今と同じような痛みを彼女が味わうというのなら、この記憶は忘れているべきだろう。


「そ、そうだ。私の中で、このことは留めて置けばいい。もし、ミストが思い出して、私に会いたいと思ってくれれば、私を見つけてくれるかもしれない……」


 彼女は多少は寂しさを感じていたが、それでも、自分は忘れられているべきだと思った。彼女はふらふらとした足取りで、自分の家に戻る。家に入り、彼女は制服から部屋着になり、ベットに寝転んだ。この世界に戻ってきたときには、体の疲れは全てなくなっていたように思う。しかし、記憶を主出すと同時に、心の疲労を自覚していた。今の彼女は王子様の前にしても騒ぐことが出来る精神状態でもない。彼女はベットに寝転んだあと、十分もしないうちに眠りについたのだった。




 白希は家に帰ってきていた。家の中に入り、電気をつける。当たり前だが、中には誰もいない。帰りにコンビニで夕食を買ってきていて、それをリビングのテーブルの上に置いた。ミスト以外の妖精たちがテーブルやソファの上に移動して、くつろいでいた。ミストはいつものように彼の肩の上に座っている。


「フレイズが、猩花と契約してるとは思わなかったなぁ」


 森と平原の世界の付いての記憶は白希たちにはない。フレイズと猩花がどこか別の空間に連れされたということしかわからない。そして、フレイズには猩花と契約した記憶はない。しかし、その繋がりは間違いなくあり、その証拠に猩花が火の魔法を使って見せたのだ。猩花に白希が魔法の使い方を教えたわけではないにも関わらず、彼女は魔法を簡単に使っていた。おそらく、記憶は無くとも経験はそのままなのだろう。だから、彼女は簡単な魔法であれば使えるということなのだろうと、結論づけていた。白希も特に、猩花とフレイズが契約したからと言って、目くじら立てて彼女たちを責めるというつもりもない。妖精たちを自分のものだというつもりはなく、彼女たちが契約するというのなら、それも彼女たちの自由だと考えている。それでも、彼の中にも嫉妬と言うものがないというわけではないのだが。それでも、彼女たちのために我慢するとなれば、苦ではなかった。


 しかし、フレイズのことにも驚いたが、先ほどからミストの様子がおかしいことに彼だけが気が付いた。いつも寡黙で大人しい彼女だが、この世界に戻ってきて、家に帰るころから、何かについて考えているようで、コンビニで夕食を選んでいるときも心ここにあらずと言った様子だった。

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