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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
31 かみかくし
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かみかくし 4

 お面をつけた男子はふたたび空に向かって指をさす。それがどこから魔獣を呼んでいる動作だということはさすがに理解していた。しかし、次の魔獣も狼の魔獣だった。それしか攫うことが出来ないということなのだろうか。しかし、ここに来る前に芋虫の魔獣を見たのだ。お面の男子の様子を見る限りでは、この世界には元から魔獣がいたわけではなく、彼が呼び出したのだろう。だとすれば、彼は他の魔獣を攫ってくることもできたはずだ。それでも、既に勝利した狼の魔獣を出現させるのには何か訳があるのか。彼女はどうしてもその行動に意味を感じられず、その行動を勘ぐってしまう。


 だが、彼女の想像とは真反対に、お面の男子は何も考えていない。ただ、単純に狼の魔獣が彼のお気に入りというだけだ。彼の攫ってきた狼の魔獣は様々な場所に存在していて、特定の環境である必要もない魔獣だ。攫うのにもわざわざ探さなくてもいいという点が彼の気に入っている理由でもある。さらに、一匹だけでいることはなく、基本は複数で行動していることがほとんどだ。つまりは、戦わせるとなれば、その魔獣が手ごろと言うわけだ。


 彼の攫ってきてた魔獣が彼の後ろから飛び出してくる。魔獣が見ているのは夕来とミストだけだ。そして、その数は五体。全て彼女の正面にいるが、全てを視界の中に納めることは出来ない。彼女は首を動かして、相手の出方を伺う。


 一体の魔獣が動き始めて、それに合わせて他の魔獣も動き始めた。それぞれがその場から跳躍して、彼女たちを取り囲むように移動する。最初こそ、同じ魔獣なら、簡単に倒せると思っていたが、そう言うわけではないらしい。彼女はその狼の魔獣が群れで狩りをすることを知らない。狼の姿をしている時点で、彼女が群れで行動する可能性を考えることは出来た可能性は高かったが、そういった余裕は彼女にはなかったのだ。


「油断は大敵ってことを忘れてた。でも。魔法も使える。これも使える……!」


 彼女は改造スタンガンのバッテリーを取り換えて、充電されているものに取り換えていた。バッテリーを変えた改造スタンガンのトリガーを軽く引くと、ばちっと音がして、改造スタンガンが再び使えるようになったことを確かめた。魔法の水に電気が通るかどうかはわからないが、それはやればわかることだ。彼女は改造スタンガンを握り、魔獣の一体に向かって走りだした。


「ミスト。相手の動きを封じる魔法を!」


 彼女は魔法の名称などを知るはずもなく、彼女はイメージしながら、使用したい魔法を彼女に注げる。イメージが彼女に共有されて、水の魔法が形作られる。彼女の周りに五つの水の球が出現して、それが地面に吸収された。そして、唐突に魔獣の足元が不安定になり、更に魔獣の足を地面が飲み込んで行く。魔獣の足元に出来たのは沼だった。


「ミストッ、水の槍!」


 彼女の両脇に二本の水の槍が出現した。先ほどと同じように、槍は前に進んでいく。螺旋を描く先端がくるくると周り、相手に向かって飛んでいく。それは相手の体を貫いて、沼の中に魔獣の一体を沈めた。足を上げようとしても、全く動かないのだから弱った体ではその沼から抜け出すことは出来ないだろう。魔獣は仲間をやられたにも関わらず、特に動揺したり、激昂したりする様子はなく、未だに沼の中で藻掻いていた。彼女は魔獣が逃げ出す前に、水の槍を八本ほど生成して、それをそれぞれに魔獣に二本ずつ飛ばす。狼の魔獣はそれを回避することが出来ずに、体を沼の中に沈めていった。彼女を狙っていた五体の魔獣は一瞬でいなくなった。


 しかし、彼女は油断しない。五体の魔獣を倒した後で、次の敵が出てくるのは罠の中でも定番だ。達成感のせいで油断が出来て、その隙を狙うのは戦闘ではずるいとは言えないだろう。それも戦略だ。


 彼女の予想は辺り、既に次の魔獣が出現していた。それは獣ではなかった。先に見えたのは剣と斧。左右それぞれにその武器を持っていて、それを持つ手には手を守る防具を着けている。その先も鎧で覆われていて、全体が見えるようになると、フルアーマーの鎧がそこにいた。しかし、鎧の隙間には何もなく、中に人がいるわけではないのが、すぐにわかった。そして、兜の顔の部分を見ると、そこには顔もなかった。


「騎士の亡霊……」


 彼女は悪霊と戦った時のことを思いだす。まさか、スクールバッグの中に入れたままになっていた聖水が役にたちそうな相手に出くわすとは全く考えてもいなかったが、これは運がよかった。彼女はスクールバッグの中からペットボトルを取り出した。その中身は透明なただの水に見えるが、その中には彼女がマリア像を前に、王子様に向けての祈りを込めた聖水が入っているのだ。

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