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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
31 かみかくし
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かみかくし 2

 狼の魔獣は夕来の改造スタンガンの電気を受け続けていた。改造スタンガンの電気が切れて、魔獣の痙攣が終わる。魔獣はそのまま横に倒れた。魔獣の体毛は微かに燃えているようで、体毛からは黒い煙が上がっていた。魔獣はそれきり、ピクリとも動かない。


(倒した……?)


 夕来は改造スタンガンをポケットにしまい折り畳みナイフを構えていた。改造スタンガンのバッテリーの予備はあるが、それを取り換えている間に、魔獣が起き上がって、倒されるなんて結果にはしなくなかった。しかし、彼女もナイフ一本で勝てるわけがないということは理解していた。しかし、彼女の慎重さは無駄になる。魔獣はそれきり動かず、倒れたままだ。少しの時間を置いても動く気配はなかった。


 ミストはそれを見て、彼女の強さを見せられた。その強さは、シラキと同じように諦めない心が手繰り寄せた未来だった。ミストは彼女の未来を何度かみた。彼女が魔獣の爪に引き裂かれる未来、鋭い牙に貫かれて食われる未来。そして、その未来の先にあるのは自分の死。ミストの前に彼女がいなければ、ミスト自身も死んでしまっていた。そして、二人が死なないためには、ミストが手を貸さずに自力で魔獣を退けるという未来は、遠い場所にあった。その結果が遠ければ、遠いほど難易度や可能性が低いということであり、もしミストが超能力を使って彼女を手助けしていれば、その未来を手繰り寄せることもできた。しかし、ミストは彼女を手助けするつもりはなく、結果的には彼女が一人で、その未来を手繰り寄せてしまったのだ。シライも異世界で何度となく、自力で未来を引き寄せていた。ミストに負担を駆けまいと、ミストの超能力を使わずとも遠くにあるはずの、未来を目の前に手繰り寄せるのだ。


「シラキ以外にもこんな力を……。私の超能力なんて……」


 ミストは何度も何度も自身の超能力を呪っていた。こんな超能力があるからこそ、誰からも狙われて挙句の果てには人の欲のためにその超能力を使わなければいけなかった。それが苦痛で、彼女に未来はなかった。しかし、たとえ彼女の超能力が無くとも、未来を引き寄せる可能性も見せたのがシラキ。ミストとの契約なんてせずとも、彼女に自らの力で未来を引き寄せる可能性を見せた。だから、ミストはシラキが特別なんだと思っていた。しかし、今、彼女の目の前に二人目の大きな可能性を持った人がいるのだ。ミストは感動で動けなかった。夕来は白希以外に自分の超能力を超えた可能性を見せたのだ。


 魔獣を倒されたお面の男子は、驚いている様子で前のめりになり、彼女を見ていた。そして、軽くぱちぱちと拍手した。彼女はその音で、注意を引きつけられる。魔獣を倒した今、彼を倒さなくては、また魔獣を呼ばれるかもしれない。彼女が走り出すのと同時に、お面の男子は再び指を上に向けた。夕来は何か嫌な予感がして、すぐに止まる。そして、今度は彼の後ろから先ほどの魔獣がのそのそと出てきた。数は二体。一体でも苦しい戦闘だったのだ。それも二体同時に相手にするには、明らかにただの人間には相手にできる数ではない。


(……勝てない戦いはしない。撤退一択!)


 彼女はお面の方に向いていた体を反転させて全力で走る。その途中にミストに負荷がかからないように手で包んで、更に走る。魔獣二体は既に彼女を補足しているため、逃げ切ることは不可能だろう。それどころか、魔獣の方が歩幅も圧倒的に大きい。すぐに追いつかれることは簡単に予想できる。


(さすがに、逃げ切れない。私の走力じゃ、無理が……)


 夕来の呼吸が乱れ始める。魔獣一体を仕留めるほどの運動をした後に、全力疾走。いくら彼女の能力が高くとも、限界はあった。魔獣の足音が近づいて来ているのがわかる。その度に彼女も焦りが募り、それが余計に呼吸が乱れる原因になる。


「このままじゃ……。だめだめ、弱気になっちゃだめ。王子様はこんなことで負けたりしないはず。死なずに、この子も救う。化け物も倒してハッピーエンド。許せるのはその結果だけ」


 彼女は頭の中の言葉のつもりだったが、思考も口から漏れ出るほどの疲労。ミストは彼女の言葉の底にある心に、シラキと似た物を感じ取っていた。彼女となら、契約できるだろう。自分の力があれば、おそらく彼女はこの場を切り抜けることが出来るはずだ。ミストは未来を視る。遠くに二人が無事に逃げ延びて、商店街で歩いている姿を視た。


「ボクと契約してほしい」


 夕来は自身の手の中で守っていた妖精から声が聞こえて、走りながら彼女を見た。妖精は真剣な瞳で自分を見ている。彼女もこんなところで死にたくはないのだろう。彼女は契約がどういうものかも聞かずに彼女の言葉に肯定した。

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