人を攫う空間 6
疲労草原。その中に一人だけ、その状況を楽しんでいる者がいた。その人物は他の人とは違い、この世界に転移してきた人の様子を見て、楽しんでいた。
その人物は動物の耳がついているお面を着用しているが、その顔には鬚が三本描かれていて、狐の面に近いような気はするが、その動物ははっきりしない。服装こそ、普通の白いティーシャツに短パンを履いている。背丈が低く、背丈だけで言えば、子供に見えるだろう。しかし、その者が持っている雰囲気は子供の持つものではなく、一般人が敵うようなものではないとわかるようなものだった。
もし、朝野姉妹か、白希か、夕来がその人物を見つけることが出来れば、その人こそ、この消失現象を起こしている犯人だと断定するだろう。そして、それは全く間違っていない。その人物こそ、神隠しだった。超能力者ではなく、神隠しと言う現象に人格が生まれてしまったものだ。本来、神隠しは誰かの意図で起こるものではないはずだった。しかし、この町に起きたのは、神隠しそのものの意志で起こったものだ。ただのオカルトではなく、町に集まる様々なオカルトが集まり、神隠しに石が宿ってしまった。神隠しの力は、この平原に様々な世界から、様々なものを攫ってくることである。白希が行った異世界から魔獣を攫ってきて、そこにあの町から人を攫ってくる。現代の人間が道具もなく、魔獣に勝てるはずはないが、それを跳ねのけて倒す者もいる。神隠しはそう言ったものを見て愉しんでいるだけだった。神隠しそのものの存在はかなり昔からあるものだが、意思が耐えられたのは初めてのことであり、その心は子供のままだ。好奇心だけで動いているため、人やものを攫って来るのも、神隠しにとっては虫を捕まえて戦わせているだけに過ぎない。
その中でも、現代にも魔獣に対抗できる力を持っている人たちを見つけたのだ。さらに、現代で生きる異世界の者たちも見つけた。神隠しはそれに強く興味を持ってしまった。だから、あの商店街の消失原書は、猩花とフレイズが初めに連れて枯れてしまったのだ。そして、フレイズだけでは飽き足らず、神隠しはもう一人の妖精も攫った。
そして、その結果、今面白いことが起きているのを見ていた。青い妖精と前髪の長い女の子。助けようとしているというのに、種族の違いか、心が繋がらず、女の方は殺すと言われる始末。神隠しにとっては面白いことだった。魔獣からただ逃げるだけの一般人を見ることにも飽きていたというのもあるだろう。神隠しはは、二人に接触することにした。それの中には、自分が怪しまれるということは一切考えていなかった。
動きを止めてミストと夕来は互いを見つめていた。ミストは警戒をより強めていた。夕来にはミストの気持ちもわからなくはなかった。彼女は自分のわがままをミストに押し付けようとしていたのだと理解する。初めて会う相手に名前も知られていて、友好的にされても夕来だってその相手を信じようとはしないだろう。今更、それを理解しても、それを払拭するための何かを彼女は考えることが出来ない。それもそのはずで、彼女は人付き合いを避けて生きてきているのだ。当然ながら、仲直りや人の疑いを晴らす方法も知らない。
彼女はミストの警戒を解く方法を思案していると、二人の近くに何かがいきなり出現していた。それは狐の面をつけた男子だった。狐の面と言っても、そこに目や口はなく、三本の鬚くらいしか描かれていない。狐だと予想したのは、その面が細長く、形から狐の面だと感じたからだ。男子はいつの間にかそこにいた。二人に注目されても、彼は何も言わない。元の世界に戻りたい人間なのだろうか。そこまで考えて、その男子が自分の方を見た気がした。その視線らしきものを受けると同時に、全身に鳥肌になるような不快な威圧感を受ける。彼女は目の前の男子が子供ではないと感じていた。いや、おそらく人間ではないのだ。人間相手にはそこまでの感覚になることは全くなかった。超能力者を相手にしたときも、悪霊を相手にしたときも、こんな圧力を感じなかったのだ。おそらく、この消失事件の犯人で、自分の手には余る相手だとすぐに理解できる。
唐突に、お面の男子が腕を動かした。自分の頭上を指さしていた。ミストと夕来はその方向が気にならないと言えば、嘘になるだろうが、この男子から目を離すことで何が起きるかわからない以上、その指の先を見ることは出来ない。それが功を奏したのか、相手にとっても予想外のことだったのか、彼の周りには狼のような胴部うがいつの間にか出現していた。