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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
30 人を攫う空間
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人を攫う空間 5

 ミストがしばらく草原を移動していると、遠くから何かが叩きつけられるような音が聞こえてきた。彼女はその音にびくっと肩を震わせたが、その音がすぐ近くで起きていることではないと知ると、安堵した。彼女はその音が何かはわからないが、ここまで派手に何かするのは朝野姉妹たちだろうと考えた。シラキの魔法の中には衝撃音が響くようなものはない。叩きつけるような魔法はあるが、その魔法は風の魔気に干渉しないため、音が出ることはないのだ。


 この世界では、自身の常識が通用しない可能性があるということを彼女は考えていなかった。自らの常識の枠を外れてるような思考回路を常に持つということは出来ないだろう。彼女は麻の姉妹たちに助けられるよりもシラキに見つけてほしいという願いの強かったせいで、その衝撃音を朝野姉妹の誰かのものだと決めつけて、その場から移動する。衝撃音が聞こえてきた方から遠ざかるように移動した。その移動ルートは森と草原の間に沿うようにして移動していた。そうすることである程度は同じ場所に行くというようなことを減らすことが出来るだろうと考えたからだ。そんな彼女の前に森の中から何かが現れた。草をかき分ける音を先にきいていて、ミストは警戒態勢に入る。いざとなれば、逃げるよりも水の魔法を使って倒す方が良いだろうと考えいた。


 シラキの前では使ったことのない魔法だが、水の魔法の中には、相手の呼吸器を覆って、魔気を体内に取り込めないようにするという魔法がある。生物にとって、その魔法は回避できなければ死ぬと確信できる魔法だろう。それ以外にも、相手の足元の土を底なしの沼にすることも、辺りを水の下に沈めるような魔法を使ったこともある。未来を引き寄せるという超能力のせいで、彼女を狙う人が多く、そのために彼女は出来るかぎり多くを相手に、一瞬で蹴りをつけられるような魔法を覚えるしかなかったのだ。シラキには沼の魔法を使ったが、彼はそこから脱出して、何度も何度も自分との対話を望んでくれた。そして、ついにはミストの方が折れることになる。その結果、シラキのお嫁さんになるほどになるとはその時は思っていなかっただろう。




 夕来はついに森の中を抜けて、次の草原に出ることが出来たと、草をかき分けて明るい日差しの下に出た。草むらから飛び出したときにはわからなかったが、近くを見れば、小さな何かがいることに気が付いた。明るさの元、おかしくなった目が光に慣れてきて、その小さな何かの形を理解し始める。小さい何かの姿の全てが見えるようになると、そこにいるのが妖精だと理解した。しかし、探している妖精とは違い、全体的に青色の妖精だ。夕来はその妖精も見たことがある。王子様と一緒にいた四人の妖精の内の一人だ。


(この妖精も王子様とはぐれたってことだよね。王子様のところに連れていかないと)


 お互いに姿を見つめあっているような状況だった。ミストは夕来に攻撃するでもないが、警戒を解いたわけではない。夕来が攻撃して来たり、騒いだりするようなら、彼女は問答無用で魔法を使おうとしていた。しかし、彼女は自分の姿を見ても何も言わない。まるで、妖精がこの世界にいることを知っているかのようだった。


 お互いに自らの思考の中に閉じこもっているせいで、お互いに固まっている状態だ。


「……妖精さん。王子様、じゃなかった。今江君のところに戻りたいんだよね?」


 ミストは彼女の言葉に何も返さない。それもそのはずで、なぜ初対面のはずの彼女はシラキのところにいる妖精だと知っているのだろうか。朝野姉妹なら、悪意はないと考えられるだろうが、そうでなければ、話は変わる。さらにシラキのことを知っていて、妖精を見ても驚かない。つまりは、敵の可能性の方が高い。この世界で、妖精を売買していて、その商品として自分たちを攫おうとしているのではないかと、疑っていた。夕来はそんなことを考えているとは知らずに、ミストに一歩だけ近づいた。


「来ないでっ! 来たら、殺すよ」


 ミストはパニックになりかけていた。かつての異世界、彼女にとっては元いたせいだろうが、そこで捉えられそうになっていたことを思いだしてしまう。夕来でなくとも、近くにシラキがいない状態では、かつての恐怖が蘇る。夕来の姿が、自分を捕まえようとする人間と重なる。


 夕来は、彼女が来るなと言った時点で足を止めていた。彼女の事情は全く分からないが、来るなと言われれば、素直に従うことにした。妖精の言うことを聞かずに、彼女たちに嫌われてしまえば、王子様に嫌われるのは間違いない。それは、自身の死よりも辛いことだった。しかし、近づかなければ、保護もできない。再び、二人は膠着状態となってしまった。


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